「へぇ、俺の姉さんもそうなんだって。」
少年の言葉に、紫歩は再び鼓動が早くなるのを感じた。
「お、姉さん?」
「・・・・・俺の父さんと母さんって結婚反対されてて、一度この村に連れ戻されて、そのときに姉さんだけ置いてきちゃったんだって。」
「・・・・・・」
少年の言葉に、紫歩は信じられないような思いで言葉を聞いていた。
―全員殺したと聞いていた。
生きているはずが、無いのに・・・・・・。
「父さんも母さんもずっと気にしてた。姉さんはどうしているか、って。」
少年は少し悲しそうな顔をして言った。
「最期までずっと、姉さんのことを気にしてたんだ。」
少年の言葉に、紫歩は思わず声を漏らした。
「・・・・・どうして」
「どうしても姉さんだけは連れてこられなくて、何度も何度も謝ってた。・・・・・母さんもずっと泣いてた。」
「・・・・・・」
何も答えられずに聞いている紫歩の横で、少年は言った。
「もしかしたら会えるかもって思ってたのに、東堂が絶えたって聞いて・・・・・」
信じられない思いで聞いている紫歩に、少年は訊いた。
「あ、もしかしてお姉さん知ってる?“東堂 紫歩”っていうんだけど。」
少年の言葉に、紫歩は戸惑った。
ギユッと目を暝って、心を落ち着けると、紫歩は淡々とした口調で言った。
「ごめんなさい、全員を把握しているわけではないから・・・・・」
紫歩の言葉に、少年は「そっかぁ」と少し寂しそうに言った。

―名乗るわけにはいかなかった。
名乗れるわけが無かった。
だって、愛されていないと思った。
自分だけが置いて行かれて、この村で予見師として生きるしかなくなった時、すごく辛かった。
祖父母はとても厳しく、愛されるために辛い練習も訓練も受けた。
もう、そうやって生きることしか出来なかった。だって、寂しかった。
お父さんもお母さんもいなくて、祖父母に庇護してもらうしかなくて・・・・・。
予見師として少し変わった能力を持っていたせいか、友達もあまり出来なかった。
辛くて、寂しかった。

でも・・・・・。
紫歩はこの時初めて悟った。
自分が味わった辛い思いを、隣にいる少年―弟にもさせることに・・・・。
「ね、もしもお姉さんがきみたちの居場所を最長老たちに告げた人だとしたら、どうする?・・・・・お姉さんを恨む?」
紫歩の問いかけに、少年は少し不思議そうな表情をしてから答えた。
「恨まないよ。俺、姉さん大好きだもん。」
弟の答えに、紫歩は驚いた。

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