「紫歩、水炉は知っているな?」
“紫歩”そう呼ばれたことで、何のために呼び出されたか、少しは理解できた。
とりあえず当主の声に、紫歩は黙って頷いた。
知っているも何も、知らないわけが無いのだ。
傍流とはいえ東家の出身。
東家本家の現当主・水炉を知らない人間など東家の者にはいない。
―もっとももういない弟妹なんかは話は別かも知れないが・・・・・。
「だいぶ前から話してあったことだが、紫歩を蒼羽に迎えたい。」
―やっぱり
当主の言葉に、紫歩はひそかにため息をつく。
東堂を残しておく理由など無いのだ。
紫歩の祖父母が生きていたら話は別かもしれなかったが、もう東堂姓を名乗っているのは紫歩だけだった。
良い印象の無い―はっきり言って悪い印象しかない―東堂など、絶えてしまったほうがいいのだ。「・・・・・蒼羽、ですか?」
紫歩の言葉に、当主が訊いた。
「蒼羽では不服か?」
「いえ、私が蒼羽に迎え入れられることを、一族が理解しがたいのでは・・・・・?」
紫歩の言葉に、当主は苦笑いした。
「確かにそうかもしれないが、洗礼名を受けたのだ。なんということもあるまい?」
当主の言葉に、紫歩は気づかれないようにため息をつきながら答えた。
「お受けいたします。名前は紫歩のままですか?」
紫歩の言葉に、水炉がはじめて口を開いた。
「変えたいのならば変えてかまわないが?」
水炉の言葉に、紫歩は少し考えてから言った。
「・・・・・それでは少しだけ考えさせてください。」

「はぁ」
中央の間を出た紫歩は、盛大なため息をついていた。
「・・・・・・どうしよう」
籍を移す時に名前を変える必要性など無かった。特に洗礼名を受けている紫歩は、“最丞紫月”の名で呼ばれるため、名前の変更などしてもしなくても良かった。
―でも・・・・・。
ふいに顔をあげた先に、紫歩は梅の木を見つけた。
その場所に植えられているのは、月花の誕生と共に植えられた梅の木だった。
「良い香り・・・・・」
ポソリと呟かれた言葉に、声がかけられた。
「今この庭で花を咲かせているのはこの木だけだからね」
上から降ってきた少年の声に、紫歩は驚いて辺りを見回した。
「あ、脅かしちゃった?」
梅の枝に座って微笑んでいる少年に、紫歩は言った。
「この木は月花のためのものだから、木に座ることなどしない方がいいわよ?」

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