Piece5
Piece5
大陸の中心という言葉が伊達ではないことを、タイタニアの街は常に思い知らせてくれる。
タイタニアの様相を聞いただけの冒険者たちは、街が近づくにつれて言葉を失い、一歩入れば街に飲まれ、大きな獣の腹の中に収まるが如く、居心地の悪い思いをする者や、無謀な夢を抱く者が現れる。タイタニアはそういった流れ者たちに夢を与える一方で、現実も教えるのだった。
街の象徴たる電波塔が、今日も悠然と人々を見下ろしている。
「……ギレイオ」
「あ? 何だよ」
「まだ、ここにいる必要があるのか」
ある、と言ってハンドルを切り、ギレイオは横目で隣を見た。
そこには倒された助手席と後部座席にまたがって、大きな棺桶が横たわっていた。車から飛び出さないようにとしっかり括り付けられ、それでも居心地の悪そうなものだが、幸いなことにタイタニアの道は全て整備が行き届いている。棺桶も、その中身たるサムナも、ギレイオにしてみれば快適な状況下にあると言えたが、当の本人はタイタニアに入る直前から数十分ほどの今に至るまで、外の様子の一切がわからないでいた。
車があちらこちらに向かっていることと、賑やかな人の声が段々とまばらになってきていることから、街の中心部を外れているだろうということだけは推測がついていた。
「お前が警戒するのもわかるが……」
棺桶から聞こえるくぐもった声に、ギレイオは「駄目だ」と答える。
「一歩出て、顔でも見られてみろ。明日の朝にはそこら中の賞金稼ぎやら冒険者が、馬鹿面下げた重討伐指定を捕まえに来る。電波塔の威力をなめんな」
「そのために人通りの少ない道を選んでいるんじゃないのか?」
「それもある。あとはくそじじいの家」
家、と鸚鵡返しに問うサムナへ、ギレイオは前方を見ながら言った。
「腕はいいんだが、何せ偏屈なじいさんでさ。人が嫌い、魔法は好かん、タイタニアはもっと嫌いとか言ってな。だから、どこに住んでも近所と衝突して、段々地下に潜るようになっちまったんだよ。それならまだ可愛げがあるってもんなのに、地下でも喧嘩するもんだから、とうとう居場所をなくしてな」
「居を転々としているというわけか」
「転々って言うかなあ……」
歯切れの悪い口調でぼやき、ギレイオはハンドルを切って速度を落とす。
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