Piece19
Piece19
ギレイオが経口で食事が取れるようになるまで、それから一日ほど要した。とは言え、目覚めて最初の食事はほとんどが水のようなもので、空っぽの胃に負担をかけないために味付けも栄養も極端に抑えている。それでも、ギレイオは文句を言わずに黙々とその食事を続け、数日かけてまともな病人食への階段を上って行った。
食事を取れるようになると回復も早く、リハビリよろしく家の中を歩き回るようになった。しかし、眠っていた間に体力や筋力がごっそり削られており、ただ歩くだけで息切れがする。ヤンケやロマは付き添いながら、歩ける時間と範囲を広げていくことに努めた。
その間もワイズマンの診察は定期的に続き、経過を見ながらギレイオにかけていく魔法の度合いを弱めていく。自力で行動が出来るようになった時、左目やギレイオの魔法の状態のことは全て告げていたが、その時も今も、ギレイオの反応は淡泊なものだった。
「……ちゃんと理解していますか」
聞き流されているのでは、と危惧してワイズマンが問うと、ギレイオは本当に微かな笑みを口許に浮かべて答える。
「わかる。自分のことだし」
でも、と言って左目を覆う眼帯に触れた。
「これは正直、めんどくせえな」
ギレイオの左目は眠りから覚めても尚、活動をやめなかった。むしろ目覚めてから成長の速度が増したほどで、ワイズマンが診察をする内に、残っていたワイズマンの魔法の残滓も全て食い尽くされていった。今はどうやらギレイオの意識の制御下にあるようで、ギレイオ本人の魔法を糧としながら成長しているらしく、その影響なのか手が触れても物が分解されることはなくなった。
傍目には魔法のバランスは今まで以上に良好である。しかし、爆弾を抱えているのと同じ危うさは変わらない。
「それも保険ですよ」
「……一体、どんだけ保険を仕込んでるんだよ……」
「聞きたいですか?」
「別にいいです……」
「理解の及ばない君のために特別に教えてさしあげますが」
「いいって」
「その眼帯は今まで君の魔晶石を包んでいた魔法と、同じ効果を発揮する物です。とは言え、大分その威力は押さえていますがね。鍋蓋と同じだと思ってもらえれば、理解出来ますか?」
無理矢理、説明を聞かせるワイズマンに、ギレイオは辟易とした顔を隠さない。
「はいはい、猿でもよくわかりましたよ。でも邪魔は邪魔です」
「どうせよくは見えていなかったんでしょう。今さら見えなくなったところで何か困ることでも?」
「……特にございません……」
「それなら結構。では後はどうぞご自由に」
- 327 -
[*前] | [次#]
[しおりを挟む]
[表紙へ]
0.お品書きへ
9.サイトトップへ