Piece3
Piece3
ありがとうございます、と、その男はひたすら頭を下げていた。興味なさげに眺めながら、こんなおもちゃが確かあったなと考えていたことを、ギレイオは思い出す。
さんざんふっかけた礼金を貰えば後は関係ない。足早に屋敷を後にして、こうしてアクアポートの街を歩いている次第だった。
「……ちょろいな」
気乗りしない仕事だったが、大事なアンティークバイクの為に大金をはたくあの男は良い客ではあった。
例え、その場しのぎの処置だったとしても文句は言わせない。
「こっちだって疲れてんだよ」
先だっての襲撃への応戦と魔法の解放。そのどちらも、ギレイオを限界近くに追い詰めた。
予想外の大群。
予想外の出来事。
予想外の魔法の発動。
全てがギレイオの予想をことごとく裏切り、何年振りかの魔法の発動は慣れない体に多大な負担を与えた。
普段から無理矢理押さえつけている獣こそ、たちの悪いものはない。しばらく寝通しで、ようやく目が覚めたのが昨日である。手の一つや二つ抜いても、許されるはずだ。
ギレイオは質素な造りの宿屋の二階に上り、自分たちが使っている一室のドアを開ける。
「サムナ」
窓辺でイスに腰掛けたサムナは、ぼんやりと窓の外を見ていた。呼ばれてこちらを向いた顔に皮の袋を投げつけると、残った右手で掴む。左腕を通すべき袖は力なく揺れるだけだった。
袋の感触を確かめつつ、サムナは部屋に入るギレイオを見上げた。
「礼金か」
「たんまり頂いた。しばらくは良い生活出来るぜ」
「すまない」
「そう思うなら、今度はお前一人で稼いでくるんだな。十万稼いできたら許してやるよ」
「……考えておく」
息と共に言葉を吐きだす。
表には出さないものの、まとう雰囲気には気落ちした感が見え隠れする。元が感情を露にしないだけに、余計痛々しく見えた。
「神殿騎士は」
「街の奴に聞いたが、ほとんどは撤退したらしい」
「……しばらくは安全か」
「多分。ベイオグラフが気付かなかったのを見ると、情報の伝達にもムラがあるみたいだな。あの場には死体も沢山あるし、一体一体確認してエデンに戻ってなんて暢気なことしてたら、二、三日じゃ済まない」
ああ、とサムナは頷いた。エデンは大陸の南に位置する街で、神殿騎士の総本山にあたる。アクアポートとエデンの往復距離を考えると、数日では済まされないのは周知の事実だった。
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