Piece16
Piece16
日は暮れ、夜が訪れ、朝を迎え、そしてタウザーがギレイオを訪れてから二度目の夜が来る。街には、万人にとってはいつも通りの夜闇が帳を下ろし、今日の働きを労うかのように星が顔を見せる。黒い布を広げた上に、白い砂をまぶしたような空は頭上を総べ、地平へとその腕を伸ばしていた。そこにはいつも、ギレイオが感じるような冷たさはなく、今日は不思議と誰かが見守ってくれているような温もりさえあった。
錯覚に違いない、と頭を振っても、背後で静かに準備を進めるラオコガたちを見ると、その錯覚すらも喜ぶべき誤解に思えてくる。
「準備が済んだら各自、俺に報告するように。それから最後の打ち合わせをする」
方々から返事があがるのを聞いて、ラオコガは神殿の階段に座るギレイオに近づいた。
「相方は?」
ラオコガは視線を巡らし、少し離れた所でアインと話しながら剣の手入れをするサムナを見つけた。
「すっかり仲良しになったな」
「あいつ、女苦手なんだけどなー」
「女と言うにはアインは年齢が足りないだろう」
「ああ、ちびっこは範囲外か」
「それをアインの前では言うなよ。怒るとめっぽう怖い」
「知ってるよ」
軽妙なやり取りを繰り返す二人も、出会った当初に比べたら随分と親しくなっていた。お互いに機械を生業にしているという点もあったが、ギレイオ自身、気づかぬうちにラオコガの人となりを気に入り始めていた点もあった。話のわかる仲間であり、相談出来る兄のような存在であり、悪ふざけの出来る友のような存在は、今までのギレイオにはなかったものだった。
一方で、サムナはどうだったのか、という事に関しては、ギレイオは全く考えていなかった。
「陽動班の準備は済んだ。にしても、魔法を使える奴をこんなに持ってっていいのかよ」
「俺たちの方は喧嘩が目的じゃないからな。タウザー一人いれば、目くらましを繰り返してどうにか出来る」
「タウザーねえ……」
神殿の中でおっとりと準備をしているタウザーを見やり、ギレイオは胸の奥でくすぶる疑惑の芽を思った。タウザー本人に何の意図もなかったにせよ、タウザーを引き入れ、ギレイオの元に単身で寄越したラオコガの意図には、多少なりとも疑いの目を向けざるをえなかった。だが、今こうして話している分には不審な部分は見られず、タウザーにいたっては不審を抱くどころか、この計画に参加させることに一抹の不安の覚えずにはいられない。
「……あいつ神殿騎士団なんだよな」
「そうだが」
「どうもあいつの言い方だと要領を得ないから聞くけど、何で騎士団を離れてこんな所をうろついてるんだ?」
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