Piece2



Piece2


「本当にあんたって子は、困ったね」

 困りたくて、困らせたくてこうなったわけではない。
 そこに自分の自由意思はなく、ただ何かの偶然と必然が合わさり──強いて言うならば天が無理矢理与えたもうたものだ。

 どうしてそれに文句を言えよう。
 どうしてそれを呪えようか。


──左目が、うずく。





「……お、……いお、──ギレイオ!」
 再び、左目をおさえて黙りこむギレイオの肩を、サムナが激しく揺さぶる。肩をびくりとさせ、始めは焦点の合わなかった目が徐々に周囲の状況を映し出した。
「……サムナ」
「まだ紅い。あまり顔をあげるな、周りが動揺する」
 言うことはもっともで、先刻、不運にも左目を見てしまった者たちの表情が目に焼きついて離れない。
「箍を外すなよ。おれはお前をどうにも出来ん」
 ギレイオは半分、呆れたように溜め息をつく。サムナにはそれが、ギレイオ自身に向けて放ったものに聞こえた。
「……阿呆らし。何が無属性方程式だ」
「その為の左目だろう。ただのガラス球とは違う」
 そう、違う。
 闇をそのまま宿したかのような眼窩にはめられたのは、世界を映すための物ではなく、魔石という名の媒体であった。
 例え魔石という名であれ、その組成は石に近い。鉱物である石を研磨し、削り、義眼に仕立て上げたのは神業といえるが、その恩恵をありがたがって受けるほどめでたい人間でもいられなかった。
 戦闘などで気分が高揚した時には反応し、右目に合わせた色味を消すほどに鮮やかさを増す。
 戦闘は出来るだけ避けたい。自身のために──そして周囲のためにも。
 普段、目のふりをしているそれは、ギレイオを抑制するものだった。魔法の暴走という獣を抑える鎖なのだ。
「わかってる。まだ平気だよ」
「ギレイオ」
 明らかに大丈夫ではない様子で言い切られても、ただ心配が募るばかりである。
 しかし、サムナの心配をよそに、ギレイオは動き出すや否や、迫るオークへ左足を軸に回し蹴りを見舞った。胸板にくらったオークは砂煙を巻き上げながら数十メートル吹き飛ばされ、はるか向こうのトロールの頭にぶつかり、もろとも絶命する。
「……平気だ」
 ギレイオは半ば自身にも言い聞かせるようにして地を蹴り、肉薄するゴブリンに向かった。

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