Piece7
Piece7
ヤンケは操作卓を走らせていた指を止め、後ろでモニターを注視するギレイオを見上げた。
「……特に異常はありませんね」
「本当かよ」
「頼んでおいてその態度ですか!」
「これしか持ち合わせがねーの。全部調べたのか?」
そう言って、ギレイオは後ろで横たわるサムナを振り返った。
エインス達の襲撃を受けて翌日には、サムナの腕も腹も見られる形になっていた。それでも生体が使われていると思しき部分には、ゴルの修理工としての腕も及ばず、専門とする人間に見せろ、という忠告は相変わらずだった。それも苦々しい顔へ更に渋味を足したような顔で言うのだから、ギレイオも苦手とするその「専門とする人間」とは、十数年経ったところで変わらぬ間柄であるのは間違いないようである。つまりは、ギレイオにとってもあまり面白くない状況になるのは必至だった。
しかし、どうしたところで、生体は門外漢のギレイオには対処する方法がない。実際にサムナの腕の表面組織の劣化は止まらず、動かすことは出来ても、また襲撃された場合には、二度と同じような腕の機能は見込めないだろう。
──それは困る。
ギレイオはサムナが彼らに劣るとは思っていなかった。恐らくは彼らの方がサムナの後継なのだろうが、完成度で言えばサムナの方が圧倒的に勝る。機能その他の問題ではなく、人間のような機械を作るという目的の上では、サムナの方が上と見て間違いはない。
しかし、戦闘能力においては劣るだろうと見てはいたが、まさかあそこまで手酷くやられるとは思いもしなかった。
戦う、ということは、精神と体のバランスから成り立つものである。エインス一人を見ると、どう見てもバランスが取れているとは言い難い。その点で言えば落ち着いて対処にあたっていたネウンの方が精神は完成されていたようだが、機械であるはずの彼が、年老いた姿でいるということが理解に苦しむ。二人でおよそ一人分、それに加えて姿を見せなかったもう一人、と考えても、サムナとギレイオの二人で苦戦するほどではなかったはずだった。
勝利とまでは行かずとも、逃げることにあれほど苦労するのは予想外だった。
考えられることはいくつかあるが、サムナの戦闘能力までも、過去に交渉に来た機構の人間が封じたという推理は、かなりの確率で真実に近いだろう。
だからこうして、体調の回復したヤンケを引っ張り出し、サムナのデータを洗いざらい調べているところなのだが、言語に自動記憶、運動能力に戦闘能力まで知らない間に封じられていたことが、ギレイオにとっては腹立たしい以外の何物でもなかった。
無論、それは封じた男に対してでもあるが、ギレイオは自分自身にもイラついていた。
お互いに積極的に詮索することはしなかった、というサムナの言葉が耳奥にこびりついて離れない。その結果が今だ。
- 114 -
[*前] | [次#]
[しおりを挟む]
[表紙へ]
0.お品書きへ
9.サイトトップへ