Piece26



 たっぷり数十秒見つめ合ってから、ワイズマンは顔の筋肉を緩めた。
「……いよいよ面白みがなくなりましたね」
「……あ?」
「いいえ、別に」
 言いながら、ワイズマンは私服のポケットからポケットボトルを取り出す。それを認めたギレイオとゴルは目を丸くし、師弟揃ってこれまで以上の驚きを見せた。
「……お前でも酒を飲むのか……」
「あなたのように毎日は飲みませんよ」
「わしはそこまで飲んだくれとらん!」
「僕もですよ。これを引っ張り出したのも久しぶりなくらいですし」
 ギレイオは身を引きつつボトルを指さした。
「どんだけ置いといた物なんだよそれ……」
「冷所暗室に置いていたので、それほど変質してはいないと思いますが。まあ、アルコールですし過敏になることもないでしょう」
「……信用出来ん、ちょっと貸せ」
 のらりくらりと追及をかわすワイズマンに業を煮やし、ゴルがボトルをひったくって蓋を開けた。すると、甘く、微かに樹木の匂いの混じった芳醇な香りが立ち上り、ゴルはボトルの中身とワイズマンを見比べる。
「……こりゃ、上等な酒じゃないか」
「あなたと違って良い物しか口に入れないようにしているので」
「いちいち、つっかかる言い方をする奴じゃな……」
 嫌そうに顔をしかめ、ゴルは蓋を閉めたボトルをワイズマンに差し戻す。
「どうした、こんなもんを」
「久しぶりに飲んでみようと思っただけですよ。ただ、せっかくですから、お二人にも味見をさせてあげようと思いまして」
 そう言って、差し戻されたボトルを机の上に置いた。
「……俺、未成年だけど」
「嘘おっしゃい。今更何を良識ぶってるんですか」
 ギレイオの抵抗をさらりとかわし、ワイズマンは部屋の隅に追いやられていた水差しとコップを見つけ、二つのコップをボトルの横に置く。そして呆気にとられる両者を置いて、コップの底から一センチほどまで琥珀色の液体を注いだ。途端に甘い香りが辺りに立ち込め、これほど濃い酒の匂いに慣れていないギレイオは顔をしかめる。
「……お前ほど不良に出来てねえ」
「僕は生まれてこのかた、不真面目だったことはありませんが」
「未成年に酒を勧めておいてそれか!?」
「この言葉遣いを見てわかりませんか?」
「あ?」
 ワイズマンはボトルを持ち、振って量を確かめた。
「僕は小さな頃から優秀でしたけどね、世の中頭脳だけでは生きていけないんですよ」
「自慢話をどうも……」
「自慢にもなりませんよ、こんな与太話。ただの優秀な人間を潰すのに時間はかかりませんが、優秀な子供を潰すのには手間もかからない。大人とは随分よく出来た生き物でした」
 ワイズマンの話を聞きながら、ギレイオはおっかなびっくり酒の注がれたコップを持って、鼻を近づけてみる。
「でも勝ててんじゃねえか」
「そうですよ。そういう大人たちに言質を取られて足下をすくわれるなんてアホなことにならないよう、一番手っ取り早い手段として僕は言葉を武器にすることにしたんです。頭脳で勝っても、向こうは納得してくれませんからね」

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