Piece26



 ギレイオはくっと喉の奥で笑う。
「調子こいてたなと思うよ、ほんと。馬鹿だし、考えなんてあってないようなもんだった。それでいっちょまえに悩んで身食いしてりゃ世話ねえな」
 誰かに相槌を求めるものではない独白は、無機質な機械やゴルたちにしんしんと降り積もっていく。そうして染み込みゆくギレイオの言葉が何をもたらすのか、耳を傾ける彼ら自身も、自らの答えを探っているようだった。
 ギレイオは微かに眉をひそめる。
「だけど今も多分、甘えてる。それはこれからもきっとそういう瞬間が出てくる。俺はそういう自分がやっぱり嫌だ」
 ふと厳しい表情をするゴルを認め、ギレイオは苦笑いを浮かべた。
「……別に今までみたいに一人で勝手に突っ走ろうなんて思ってねえよ。でも、俺は誰かや自分に甘えるだけの義務をまだ果たしてない。それなのに権利だけ使おうなんて、それこそ子供のすることだろ? お前らからすりゃ俺なんかまだ子供だろうけどさ、でも今よりましにはなりたいんだよ」
 ギレイオはつ、と視線を落とす。
「俺がやった事は仕方のない事じゃない。だから皆が許そうとかどうしようとか考えなくていい。俺の処置は俺が決めるし、命の使い方もおんなじだ。ただ、その時、俺がまたどうしようもない事をするように見えたら、その時は俺を止めてほしい」
 ワイズマンは言葉を吟味するように黙り込み、ゴルも皺だらけの顔に更に皺を集めて渋面を作りだす。静かな部屋はこれまでにないほど密接した空気を作り始めていたが、ゴルが溜め息と共に重々しい声を吐き出した。
「わしらの言う事を聞けるのか?」
 苦い色を滲ませたそれは子供を窘めるような穏やかなものではなく、もっと高位の部分での再確認だった。
 ギレイオは一瞬だけ肩を強張らせたが、すぐに力を抜いてゴルを見返した。その顔には苦笑が浮かんでいる。
「聞かなかったら今度こそスパナでぶっ叩いてくれ」
 穏やかな声には張りつめたものがなく、今までのように聞く者の心にさざ波を立てるような話し方はしなかった。
 自らを投げ出さない話し方というものは、こんなにも雰囲気を変えさせるものかとゴルは内心で舌を巻きつつ、一方で、ギレイオの言い分に納得出来たわけではなかった。こんな短期間で劇的な心境の変化を与える何かがあったとしたら、ゴルの耳にも何かしら情報が入ってきても良さそうなものである。しかし、こうしてギレイオの変化を目の当たりにするまで、ゴルの日常は穏やかとは言えないが、通常を逸脱しないぐらいには穏やかな毎日であった。自らの目で確認して納得出来ないものをほいほい信じることは出来ない。ただ、ギレイオの言い分は尊重しようと、その場は矛を収めて引き下がる。
 ワイズマンはというと、その表情は相変わらず読めない。それはギレイオも同じことのようで、引き下がったゴルの様子にほっとしながらも、無言で見据えるワイズマンの視線に居心地の悪さを感じているようだった。しかし、その両目から逃げようという意志は感じられず、むしろ真っ向から受けて立つような気概さえ見える。

- 435 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#溺愛」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -