Piece26



 彼らの会話は少ない。二言三言交わせればいい方で、無言で食事を終えることもある。それのどこが楽しいのか、と船員の言葉を代弁してワイズマンに呆れ顔で言われたことがあるが、こちらが安心するからとは口が裂けても言えず、ギレイオのためと理論武装を口にして、その言葉の薄っぺらさに自分たちで呆れかえった。ギレイオにあれこれと言うよりもまず、自分たちが自分たちの身の振りを何とかしなければならない。
 今日も今日とて、かちゃかちゃと食器とフォークがぶつかる音がする。沈黙を埋めるその音は周りのように軽快で楽しいものではなく、沈滞した空気を無理矢理に押し流そうとする音だった。
 ヤンケの隣に座したロマはいつものように食事を終える気のようで、相変わらず黙々と食べている。何か話そうかとギレイオの様子を窺ったヤンケは、進んでいるようで全く進んでいない食事の様子にいつもと違うものを感じた。ギレイオはフォークで料理をつつくだけで、全く口に運んでいないのである。
 ギレイオの動向を注視するヤンケに気づいたのか、ロマも同じようにギレイオを見つめたが、食事をする手は止めなかった。
「……まずいけど食べとけ。体力にはなる」
 食事をする勢いに言葉を乗せてしまおうとロマは考えていた。表面上は平静を保っているが、内心では心臓が大きく跳ね返っている。ロマもまた、ギレイオとの距離の取り方をまだ掴みかねていた。ギレイオの未知の部分を知った自分と、今までの自分が上手く重なり合わない。
 こつん、こつん、と食器の空いた部分にフォークの先をぶつけていたギレイオは、その動きを止めた。
「ヤンケ」
 思いの外、力強い声がする。近くのテーブルで食事をしていた船員が、わずかに顔をこちらに向けた。
 ヤンケは肩をびくりとさせ、「はい」と答える。ギレイオはゆっくりと前屈みの姿勢を正したが、視線は下を向いたままだった。
 不意に、食堂に入る前のギレイオの背中が思い出される。とても真っ直ぐに前を見つめる背だった。
「お前、サムナの居場所わかるか」
 抑揚を欠いた声は二人の動きを完全に止めた。その様子を不審に思ったのか、ギレイオはちらりと視線を向ける。
「……聞いてんのか?」
「え!? ああ、はい……」
 呆けたように見つめるヤンケに、ギレイオは問いを繰り返した。
「で、わかるのか?」
「わかると……思います……けど」
「けど?」
「時間が……多分……」
「かかっていい。でもなるべく早く」
「……はあ」
 半ば強引に頷かされたヤンケに替わり、ロマが慌てて口を出す。

- 426 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -