Piece26



 最近では遠慮が薄れてきたのか、好き勝手な事を言う者もいれば、悪意を込めて囁く者もいる。そのどれにもギレイオは反応を見せず、淡々と食事をして出ていくのが常であった。反応するだけの体力と気力がなかったというのも理由の一つであった。
 賑わう食堂の中でもギレイオの周囲だけは空白地帯となる。近寄りがたいというのが周囲の共通した意識で、その意識を支えるのが、彼らの記憶に新しいギレイオの戦い方だった。誰でも得体の知れないものは恐ろしい。生物として当たり前の忌避感にギレイオが文句を言えるはずもなく、わかるからこそ自分から近づくこともしなかった。
 そんなギレイオを見つけては、必ず席を共にするのがヤンケたちである。一人でいるギレイオを慮ってというより、見知った人間がいるから一緒に食事をする、という当たり前の感覚が足を向けさせていた。ただ、ヤンケに限っては多少、別の思惑があったことは否めない。穴蔵生活の長かったヤンケにとって、好奇心を刺激する飛空艇での生活は楽しいものだが、見知らぬ大量の人間との付き合いは常に緊張を強いられるものであった。そもそもが人を嫌って潜ったのだから、これまでよくもったとも言える。しかし、好奇心と緊張のバランスを常に上手く取っていることは難しく、危うくなりそうなところをギレイオと行動を共にすることでバランスを取り直しているようなものだった。
 ただし、ギレイオと会話することで何かを得ようというところまで、ヤンケの勇気は追いついてこなかった。
 今日も、ヤンケはギレイオが食堂に向かうのを見つけ、自分も夕飯がまだだからと理論武装して後に続く。回復途上にあるが、朝に見た時よりも一段と背筋が伸びていることがヤンケの目を引いた。
 食堂にギレイオが入ると、一瞬だけ賑わいに静寂が落とされる。しかしすぐに喧騒が戻り、それぞれが何の気もないような顔で会話しつつもギレイオの様子を窺っていた。その探るような感覚が、ヤンケはどことなく嫌だった。
 ギレイオに続いて料理人から食事のプレートを受け取る。備蓄食料が少ない中で、朝昼晩、メニューはそれぞれ一つしかない。ゴルが「美味しくない」とぼやく食事はぼそぼそとしたパンと果物、そして肉料理だった。師の言葉を思い出しながら変わり映えのしないメニューを見つめていると、横合いからこそりと声をかけられる。
「……あんまり美味しくないよな」
 馴染みの声にヤンケは顔をあげて、苦笑した。
「でも食べれるんですし」
「そりゃそうだ」
 料理人の前で失礼な会話を繰り広げたロマは、同じプレートを持ってヤンケに続いた。彼もまた、ヤンケと同じ緊張に疲れるタイプの人間だった。
 ギレイオが座したテーブルは相変わらず閑散としている。二人はギレイオの向かいに座って食事を始めた。ギレイオも二人の同席を嫌がることなく、テーブルに腕を置いてやや前屈みの姿勢で食事をしている。

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