Piece26



 アインは目を閉じた。
「サムナを取り戻してね。そして一緒にソランの墓にお参りしてあげて。喜ぶと思う」
 確信の持てない声でギレイオが相槌を打つと、その内情をアインは聞かずにギレイオから頭を離して笑った。
「本当にここって落ち着くのね。ラオコガとタウザーが寝たのもわかる気がする」



 のんびりとしていられる状況なのかそうでないのか、ギレイオは図りかねていた。周囲の人間は必要以上のことをギレイオに求めず、アインがあのように言ったことの方が珍しくさえあった。無論、体力を回復させる方を優先すべきという意見が彼らをそうさせているのだが、サムナの不在をギレイオの前で公にすまいという配慮があるのもまた事実であった。
 腫物を触るようだと思いもすれ、仕方のないことだとギレイオにはわかる。彼らにそうさせたのは自分であり、そうさせないよう努力を怠ったのも自分だった。
 日中の自室はおそろしく静かである。飛空艇の航行音が静かなのもそれを手伝うが、誰もがギレイオの自室が面する通路を使わないよう避けているフシがあった。一応は療養中の身である手前、ギレイオにとってその配慮はありがたい。時々に治りかけの傷が痛み、その際はいくら怪我に慣れているギレイオでも呻き声をあげずにはいられなかった。そんな様子を誰かに聞かれるのだけは嫌だ、という羞恥が働くぐらいには元気になっていたが、体は容易に精神へ付いてこない。どこかで回復をセーブしている部分があることに、ギレイオは気づいていた。
 アインの言葉がずっと木霊している。
──サムナを取り戻してね。
 おそらく、彼女の行動の中で、ギレイオを救済することとサムナを連れ帰ることは同義なのだ。それもかなりの整合性を保ってアインの中で確立されている。
 それに応えられるだろうか、という疑問はわかなかった。ただ、自分が本当にそうしたいのかわからない、とだけギレイオは思った。
 サムナが離れて行ったことはさほどショックではなかった。その理由も結果も、夜の窪地でずっと考え続けて既に結論は出ている。相方のいない傍らは大きくスペースを取り、ギレイオはこれまでで一番身軽な自分を感じていた。
「……これ、どこにでも行けんのかな……」
 改めて口にしてみると、身軽さは確かな現実となって肌身に染みた。
 ふっと軽くなる体のまま、どこへでも行ける自分を夢想してみる。神殿騎士団に追われる心配もなく、身の危険を常に案じる必要もない。大きな街で手堅く稼ぐことも出来るだろうし、これまで避けてきた砂漠も自由に渡れる。稼いだ金はどこまでもギレイオを自由にし、どこへでもギレイオは行ける。ただし、どの風景でもギレイオは一人であり、そこで夢想は途切れた。

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