Piece26



「なんか、ラオコガにも言われたな、それ……」
「私が暴露した時、結構、皆はそのあたり避けてたけど。まあ、あなたはその点慣れてるもんね」
 これにはギレイオは無言で応じた。
 アインは構わずに答える。彼女にはもはや、自らの中にある真実を隠そうという気はないようだった。目的を果たし、長年の責務から解放された身だからだろうか。
「ソランは私を人間の中に放り込むことで、感情の模倣みたいなことが出来ないかって思っていてね。……結局、模倣は模倣なんだけど」
「……そこまで出来れば充分だよ」
「ありがとう。私もね、こんなに出来るとは思わなかったから嬉しい。持てる時間いっぱい使い切っちゃったわ」
 目を伏せて言うアインをギレイオが見上げると、アインは笑った。
「私、そろそろ稼働限界なのよね」
 ギレイオは息を飲んだ。そしてようやくここで合点がいく。アインが一体、何に対して焦りを抱いていたのかを。
「さっき言ったでしょ? 私は元々、生活補助目的の人形だったって。だから動力炉もそんなに容量のある物じゃないの。色々やってたら、限界時間があっという間に短くなっちゃった」
 ギレイオは視線を逸らし、足の間に投げ出した手を見つめた。
「……ごめん」
「あなたに謝られると気持ち悪いわねえ」
「俺がもっとまともだったら、お前にそんなことさせなかったんだよな」
「あなたがまともだったら、私は今頃こうしてあなたと笑って話せなかったんだけど、そのあたりはどう思うの?」
 アインはギレイオの隣に腰をおろし、膝を抱えた。白い髪は銀糸にも似て、微かな光を放っている。
「ソランの望みは果たされたわ。私はそれで充分。これを幸福って言うの?」
 覗き込んで問うアインに、ギレイオは曖昧な答えを返す。
「さあ……」
 アインはギレイオから顔を離した。そして中空を見つめ、体を揺りかごのように前後に揺らして呟く。
「そうよね。あなたにはわからないだろうし、ラオコガにもきっとわからない。だから、あなたが罪悪感を覚える必要もないの。私がこれでいいって言うんだから。ソランが決めた道だけど、やろうと思ったのは私よ。……間違いなく、私なの」
 後半は自分に言い聞かせるようにして呟いた。
「……限界が近いって、あとどれくらいだ?」

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