Piece4



「おい、あんた……」
 小柄な体に不釣合いなほど大きな目をぎょろりとさせ、怪異さを表に出す。通常であれば気味の悪い部類だが、今のギレイオに通用するような代物でもなかった。
 ちょっとどいてな、と猫をどかすような動作で老人を椅子から下ろすと、ギレイオは男を正面から睨みつける。
 興味津々といった体でギレイオを見つめていた男は、ようやく思い出したように「ああ」と声を上げて手を打った。
「ギレイオ!」
「今さら思い出したみたいな言い方すんじゃねえ!」
 ギレイオは間髪入れず、すぱん、と平手で頭を叩いた。
 だがしかし、それでも男は動じるということを知らないようだった。
「やー、奇遇、奇遇。すげえなあ、偶然ってあるもんだねえ」
 男の言い方はまるで他人事だが、ギレイオには他人事で済まされない記憶が蘇っていた。
「ああ、そうだな。俺もお前と会えて嬉しいぜ、ジギー。だから踏み倒した料金を今払え。すぐに払え」
「したっけ?」
 しらっととぼけてみせる顔が、また憎らしい。しかし、秒速で冷え込んでいくギレイオの雰囲気に、さすがにまずいものを感じ取ったのか、ジギーは立ち上がってギレイオと肩を組んだ。
「いやいや覚えてるって。オレ様がお前との約束を忘れるわけないじゃねえか。だろ?」
「そう言って……」
 ギレイオもジギーの肩に腕を回した。だが、こちらはまるで逃さないとでも言うかのように、友好的なものは一切感じられない。
「前も逃げたじゃねえか。あの時は何つったか覚えてるか? 用意するのに時間がかかる、手間がかかるっつって、挙句の果てにはトンズラこいただろ、コラ」
 いや、と言ってジギーはするりとギレイオから離れた。
「オレっちも心は痛んだのよ。旧来の友人を騙すようで申し訳ねえって。でも、ない袖は振れねえしさ。あれは大金だったしさ」
「最初っから話をうやむやにして、踏み倒すつもりだったろ」
 ギレイオは容赦なく言い放った。
「あの後、方々をシメあげて聞いたからな」
 金が絡むとなれば、ギレイオは手段を選ばない。「シメあげた」方法とやらも、一言では言い尽くせない内容になることは違いなかった。ジギーが表情を固まらせていると、ギレイオは一つ息を吐いて、気持ちを切り替えた。

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