Piece25



「……大丈夫だったと思うかい?」
「何が?」
「ギレイオの様子。淡々と聞いていたし、質問もしてくれたけど、戸惑ってるんじゃないかなあ」
「案外、大丈夫だと思うぞ」
 ラオコガの気楽な物言いにタウザーはまたしても嘆息した。
「……ラオコガって神経が太いよね……」
「含みのある言い方だな。一応、根拠はある」
 きっぱりと言い切る口調に気になるものを感じ、タウザーはラオコガと同じように座り直した。
「どんな?」
「ちゃんとあいつ、人の目を見て話してただろう」
「前もそうだったと思うけど」
「ちょっと違う。まあ、戸惑ってはいるだろうが、あいつなりに頑張って俺たちの側に立とうとしてるように見えてな」
「ああ……」
 タウザーは中空に視線をさ迷わせ、自分に一生分の勇気を使わせてくれた雰囲気の理由を知った。あれは聞く側の人間も同じだったからだ。ギレイオは努めて、彼らの側に踏み込もうとしていた。
「そうかもしれない」
「だろう? だから大丈夫だと思う。最初の一歩が自分で出せているんだから、年寄りはそれを見守って、時々引っ張ってやればいいだけだよ」
「年寄りって」
 その言い方がおかしく、タウザーは声をあげて笑った。だが、年月を感じさせる言葉の登場に、確かな時間が過ぎていたことを知る。随分と遠くへ来てしまったものだが、果てに見つけたものはその対価を払って余りあるものだった。
「……俺たちも充分年寄りかあ」
「そうそう。だから、徹夜明けはちょっと辛いなあ」
「え!? 徹夜!?」
 ラオコガに指摘されて振り返れば、窓の向こうから暁光が夜の帳をめくり上げようとしていた。黒と白が二分してた世界は一転して白の世界に変わり、やがては青い空が澄んだ空気を感じさせることだろう。
 長い間話していたような気はするが、まさか夜明けまでとは思いもしない。時間の経過を如実に感じ取ったところで、タウザーはへなへなと力が抜けた。
「参った……これから一日動力の安定化するのか……」
 アインがナビゲーターをしてくれているとは言え、細かな調整はタウザーの技術に依る。そしてその技術は集中力を要し、ひいては気力体力の消耗にも繋がった。ギレイオと話していたからと言ったところで、休ませてくれるとは思えない。
「俺はアインにしっかり叱られるんだろうなあ……」
 長い間船長が席を外していたという事で叱られるのを想像し、ラオコガは力なく笑う。
 これでは誰が責任者かわからない、と二人は重い溜め息を吐いた。
「……ここでちょっと寝て行きゃ多少は楽になるかな」
「部屋に戻ったら万事休すだよね……」
 年寄り二人は長年の経験から、不毛な考えに時間を費やすことはせず、行動に移すのもまた早かった。
 抱えていたものを下ろし、軽くなった心身で要求される睡眠に身を委ねるのは簡単なことだった。すとん、と眠りの旅についた彼らが安らかな寝顔をアインに引っ叩かれるのは、これより一時間も経たない後のことであるが、ひとまずは安心して寝てもいいと自らに許せた時だった。


Piece25 終

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