Piece25
少し前としかタウザーは言っていない。それが数か月前なのか、数日前なのか、はたまた数年前なのか。
答えを求めるギレイオの沈黙に耐え切れず、タウザーは溜め息と共に答えた。
「年単位ではあるね。だから、俺は君に会うのが怖かった。君が俺の事を忘れているのか覚えているのか、そのどちらにも俺は覚悟を決めかねていたから」
正直言って、とタウザーは困ったように笑った。
「あの時、扉で頭をぶつけてもらってちょっと助かったんだよ。俺はこの通りの性格だから」
「……遺志っつったよな」
「うん」
「……お前にとってあのおっさんは凄い人だったんだと思う。でも、その意志を継ぐほどのものが、俺にあると思うのか?」
ギレイオはタウザーを見据えた。
「独善的だろうが何だろうが、お前らの時間を使うほどのもんが俺にあったのか? そんなのてめえで抱えて、時々取り出すくらいのもんで良かっただろ。どうしてそれをしなかった?」
何もない、という自覚は大いにある。魔法も修理屋としての腕も、誰かの時間をかけて捜させるほどのものではない。それに値しないみっともない生き方をしてきた自分を、タウザーやパストゥスが気にかけていたということが申し訳ないを通り越して腹立たしくさえ思えてきたのだ。
そんな無駄な事に、とギレイオの言葉に言外の意味を感じ取ったタウザーは少し微笑んで視線を伏せた。
「それはちょっとある。あまりにも見つからなくて……君は何かに追われているようだったし、よく移動もしていたから……その時はどうして俺はこんなことをしてるんだろうなあって。やめても多分、誰も何も言わないだろうなと思ったよ」
「それだよ。俺なんか見つけたところで、誰も褒めやしない」
「褒められたかったわけじゃないんだよね。……たださ、まあ、これも君に言わせれば独善的って話になるんだけど。俺、本当に友達が少なかったんだ」
タウザーはギレイオを見据えて笑った。
「だから、同世代くらいの子と一緒に笑った瞬間って、俺にとってはかなり貴重な体験だったんだ。友達を助けたいって思うことと、師の遺志を継ぎたいって思うことは、俺にとってはそんなに無理のある目標ではなかったってだけかな」
目覚めたばかりで無理をしては体に障ると言い、ラオコガとタウザーは部屋を出た。同じ飛空艇内であるのに、通路へ出た途端に空気が軽くなったような気がする。二人は知らずして肩に力を入れて挑んでいたようであり、ギレイオの部屋から離れたところで窓側の手すりにもたれかかった。
「……緊張した……」
腰が抜けたように手すりを掴んだまましゃがみ込んでしまったタウザーの横で、特に腰が抜けたわけではないが立っていることに疲れたラオコガが座り込む。
「よく喋れたなと感心したよ」
「一生分の勇気を使ったと思う……」
「あれで一生分なら、この先が心配だな」
「全部終わったら隠居したいよ……」
タウザーは重々しく息を吐いた。
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