Piece25



 ギレイオは詰めていた息を吐きながら、小さく笑った。
「……は、立派なもんじゃねえか」
「そう、立派に育った。だけど、重ねて見ていた君にはそれが出来なかった。独善的と言っても構わないよ。傍で聞いていた俺もそう思ったぐらいだし、そのことはヒュラムさんもよく理解していた。でもそれでも、後悔を止められない時っていうのはあるんだよね」
 全身から力が抜けるのを感じ、ギレイオはタウザーを見つめ続けることが出来なくなった。
 あの時、アインが差し伸べた手の白さを思い出す。あれは自分一人だけの手じゃないとアインは言った。
「……幸いというか……俺は後方支援タイプだったし、抜けたところで困るような人員でもなかったから、ヒュラムさんの遺志を継いで君を探そうと思った」
「……よく探せたな、俺のこと」
 まだ短い人生ではあるが、そのほとんどを地下世界に埋めて過ごしてきた身である。真っ当な生き方をしてきた人間であるならともかく、という意を込めてギレイオがぽつりと問うと、タウザーはにっこり笑って両掌を合わせ、祈るような体勢を取った。そして何事かと顔をあげたギレイオの前で、タウザーが開いた両掌の間から小さな光の玉がこぼれ出す。
「覚えてる?」
 無数の光球は部屋全体に広がり、不定形な影をあちこちに躍らせた。宙を漂うその光景に、胸を暖かくさせるような思い出とも呼ぶべき記憶が顔を覗かせた。
「……これ」
「君は喜んでくれたよね。あの時の俺が出来る最大の魔法で、だけど周りからは役立たずって言われていた。素直に喜んでくれる人がいるって、あの時、結構嬉しかったんだよ」
 これは、と宙を泳ぐ光球を指で弾く。弾かれた光球は光の粒を煌めかせながら消えた。
「探査の魔法なんだ。だけど、人に関しては一度この魔法で触れないと探せないし、その時に出る光が強烈でねえ。狭い場所だと乱反射してとんでもないことになるし、広い所でもかなり目立つから、それが役立たずの理由なんだけど」
──太陽を見るのと同じ。
 幼いギレイオに、同じく幼さの残る顔立ちのタウザーが真剣な表情で言ったことを思い出す。
 発動の瞬間を見てはいけないと彼は言った。しかし、触れてはいけないとは言わず、実際、ギレイオは舞い散る木の葉を追うようにして掴んでは遊んでいた。
「……あれか……」
「俺たちの任務は監視と管理、そして対象者の早期発見だ。だけど俺たちみたいな少数で生身の人間が、広大な大陸でそれを常に行っていくのはちょっと厳しい。それに君たちは移動する民だったから、余計に君の場所を把握しておく必要があるって言ってね。ヒュラムさんは元々、俺に探査の魔法を使わせる気だったんだよ。それを、君がいいタイミングで使わせてくれたから、内心ほっとしてたと思う」
「それで俺を捜していたのか? ずっと?」
 タウザーは頷く。
 その頷きの重みに耐えきれず、ギレイオは問うた。
「……どれくらい?」
「それは関係ある?」

- 415 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -