Piece25



 些細なことであった。他人が聞けば眉をひそめて「馬鹿馬鹿しい」と一笑に付されて終わるような、単なる派閥争いだった。
 “異形なる者”に対する騎士団の基本的姿勢として、盾を取るか、矛を取るかといった思想の違いからなる分裂は、昔から騎士団の表層をかすめたり沈んだりと繰り返しながらも表だった争いに繋がることはなかった。そんな馬鹿げたことに労力を割く余裕もなかったと言った方が正しい。
 しかし、規模が大きくなれば労力は増え、馬鹿なことと言われる思想に大事な人員を割く者が出始めるのも事実であった。一つの派閥が生まれれば自然発生的に新たな派閥が生まれるのはやむを得ない話であり、人々が生み出した二つの望まれざる子供たちは急進派と保守派という名をつけられて、堂々と表を歩くにまで成長したのである。
 成長した子供たちは人々の理性の箍を易々と外し、過去の因縁を引きずり出して争いの舞台を瞬く間に作り上げていった。その場で踊らされることになる人間たちは、もはや自分たちが何のために戦っているのかもわからないまま、手にした魔法を“異形なる者”ではなく、同胞へと向けた。
 死者五名、怪我人はその倍、目撃者は更にその倍以上に及ぶ。
 後世の騎士団員からすれば思い出すのも腹立たしい、馬鹿げた汚点の一つだった。ただし、その当時の人々にとっては確かな現実であり、タウザーたちもギレイオの監視から離れて正規部隊に合流するよう命じられ、騎士団の規律向上と意思の統一を図る目的の無為な作戦行動に付き合わされたのである。
 それからようやく解放された春の日、彼らにもたらされたのはダルカシュ消滅の報であった。
「……俺たちが着いた時にはもう、全てが終わった後だった。何もなかった。勿論、君もいなくなった後だった」
 タウザーは目を伏せた。
「それからは他の対象者を回って任務を続けたけど、ヒュラムさんはずっと君のことを悔やんでいた」
「……何で、おっさんが後悔するんだよ」
 問い質すギレイオの声が震えていた。
「俺、何かしたか? 何もしてねえよ」
 タウザーは伏せていた目をギレイオにぴたりと合わせる。
「そこなんだよ。君は俺たちに何も求めなかった。別に求めてほしかったわけじゃないけど、あの時の君ぐらいの年齢で、どうしてそこまで自分を抑え込んでしまえるんだろうって。それなのに、俺の魔法を見た時の喜び方とのギャップがずっとね……ずっとヒュラムさんや俺たちの中に残ってたんだよ」
 だから、と苦笑を浮かべる。
「君を見失った時、不思議と目の前からもぎ取られたような感じがした。君自身というか、機会というか、チャンスというか、そんなものを。……もっとも、ヒュラムさんは本当に自分の子供みたいに思って気にしてたのもあるだろうけど。別れた奥さんとの間に、息子さんが二人いてね。ちなみにどちらも健在で、片方はガイアで採掘業、片方は騎士団で事務をやってます」

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