Piece25



「ごめん。騎士団は街を守る最強の軍だけど、街を壊すのは何も“異形なる者”だけじゃないという考えが少なからずあるんだ。極端に魔法の強い者、あるいは異種の魔法を使う者……そういった人たちを見定めていくのが俺たちの仕事だったんだよ。ただ、人が人を見定めるのには限界があるし、“異形なる者”が最優先されるべき敵なのに、人間相手に何をっていう声も無視できないくらいにはあった。だから、俺たちは正規部隊とは離れた所で、独立して動く必要があったんだ」
「今は離れているって言ってたのはそれか?」
 タウザーは頭を振る。そして少しだけ悲しそうに顔を歪めた。
「俺が離れたのは個人的な理由だよ。ヒュラムさんは覚えている?」
 タウザーと話している内に、段々と少年時代の自分が呼び起こされていくのを感じた。忘れまいとしていたのに、どこかで努めて忘れようとしていた部分があったらしい。彼に言われるまでパストゥスのことはすっかり忘れていた。しかし、いざ名前を口にされると埋没していた記憶の山の中から、容易に彼の表情や手の大きさまで拾い上げることが出来る。
 パストゥスは大きな男だった。笑い方も、掌も、その全てが他人を許容してくれる。
「少し前に病気で亡くなったんだ」
 思い出しかけていたギレイオは唐突に記憶の糸を断ち切られ、思わずタウザーの顔を見返した。その顔を、タウザーは微苦笑でもって受け止める。
「驚くよね。俺も、ジャンさんもレオノーラさんも驚いた。ヒュラムさんや俺たちは普通の死に方は出来ないって覚悟していて、それでどうしてか、病気とかそういうものは俺たちを避けて通ってくれるなんて思っていたんだよ。皆、同じ人間なのにね」
 故郷が遠い、と言ったパストゥスの声が耳の奥に蘇る。自分たちには遠いものだから、故郷と共に移動するギレイオたちが不思議だと、心の底からそう思っているようだった。
 彼はそこに、自分の何を重ねたのだろう。
「……それでね、ヒュラムさんが最期までずっと気にしていたんだ。あの時、あの子を連れだしてやれば良かったって。君のことだよ、ギレイオ」
「──…俺……?」
 タウザーは頷いた。
「君も俺たちの監視の対象だった。ダルカシュの噂と一緒に、君の噂もよく耳にしていたし、何よりヒュラムさんが気にしていたのは君の年齢と環境だった。君はあまりにも、魔法やそれに類する知識から離れた場所にいたから。……それと君の魔法とを比べると、かなりアンバランスな所にいるって言って、慌てて行ったら」
 その時のことを思い出したようで、タウザーは口元に拳を当てて笑った。
「君は随分やんちゃな子供だったし、一筋縄じゃいかなかった。自分の魔法に対する姿勢には多少心配な面もあったけど、あの時は大丈夫だろうって話になってね。継続して見守っていこうとしていた矢先に、騎士団で揉め事があった」

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