Piece25



「変な聞き方するのな。それじゃお前、タウザーの事情知ってるみたいじゃねえか」
 これにはラオコガも一瞬、身を引いた。
「……怪我人だと思って、正直甘く見ていたんだが」
「それぐらいにしといてもらえると助かる。……正直、頭がついてこないんだ。目が覚めてからのことと、覚める前のことがごっちゃになっていて、何を見たらいいのかわからない。なのに、妙に昔のことは出てくる。なんとなくタウザーみたいなのがいたなと思い出したくらいなんだよ」
「そんなに印象薄かったかなあ……結構、頑張ったんだよ」
「悪い」
 するりと謝罪の言葉が飛び出してくることに、ラオコガとタウザーの二人は内心で安堵していた。謝ったことにではなく、二人との会話を拒まずに受け入れる姿は二人を何よりも安心させたのである。
 ラオコガたちと行動を共にしていた時でさえ、どこか一歩引いた姿勢で話していたギレイオが、彼らと同じ場所で話そうとしてくれていることが嬉しかった。
「足だけで済んだのか」
 ラオコガは緩んだ顔のまま答える。
「いや。全身くまなく傷だらけだ。だから言っただろう、半死半生だったって。それはもれなく俺のことも含まれてる。さすがに参ったよ。起きたら右足がないんだから」
 黙ってギレイオは続きを促す。
 ラオコガは右足をさすった。
「もう歩けないと思った。機械工も続けられない、飛空艇も作れない、まともな生活には戻れないと思った。……アインには泣くなって怒鳴られるし」
「泣いたのか?」
「泣いたよ」
 ラオコガは苦笑を浮かべる。
「ここ十年で久しぶりに悲しくて大泣きした。男の方が女々しいっていうのは結構当たってる」
 言葉を選ぶように口を開き、選び取った言葉を取り出すのを躊躇ってから声を絞り出す。
「……俺たちと一緒じゃなきゃ、そうはならなかったよな」
「……まあな。否定してどうなるものでもないから言うが、それはその通りだろう。会わなければこうはならなかった」
 ギレイオを見据える瞳にはいつもの穏やかさの隣に怒りがある。当たり前と思っていたものを失くした絶望はギレイオにもよくわかるものだった。だからと言って、「わかる」とはラオコガには言えない。ラオコガが失くしたものと、ギレイオのそれは違うのだ。喪失感の類似性を見つけ出すほど虚しい作業もない。それぞれが、それぞれの依るべき場所を思い出すことが大事だと、ギレイオはついこの間気づかされたばかりだった。

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