Piece25



 いっぽうで、どうやって弟子を諭したものか、ゴルはその実、自分の言葉に自信があるわけではなかった。ギレイオを見つけて後、ずっと考えあぐねいていたことである。これから自分はどうやって接すればいいのか。ギレイオとの距離感の測り方を一番に見失っていたのは、ゴルだったと言っても過言ではない。長すぎる付き合いが、そして老いが、彼の足の歩みを鈍らせていた。
 だからこそ見えるものもある。遅すぎる歩みから見れば、ヤンケは性急すぎるのだ。その速さは牽引力として最大の効果を発揮するが、時として取りこぼしていくものを見失いやすくする。今のギレイオにそれは致命的だった。
「あいつを信じてやれ。……ああ、そんな顔をするな」
 自分よりも背の高いヤンケの頬を、骨ばった皺だらけの手がいたわるように触れる。
「……そんなひどい顔してますか?」
 ゴルは笑った。
「しとるな。わしのよく知る情けない洟垂れの顔じゃ」
「女の子に対して、それは失礼ですよ」
 ヤンケが笑って返すと、ゴルは手を後ろに組んで微笑んだ。
「そりゃ悪かったな」



 扉の向こうとこちら側ではおそろしく空気が違っていた。外が和やかである一方、内ではいくらか緊迫した空気が三者を縛る。主にラオコガに対峙したギレイオから発せられるものであり、杖をついたラオコガが苦笑してベッドの脇にある椅子を示して「座ってもいいか」と尋ねると、それだけで縛り付けていた糸の一つが切れたようだった。
 タウザーの助けを借りながら座ると、ラオコガは杖を横に立てかけた。一挙手一投足を見つめていたギレイオにラオコガは言う。
「死んでると思ったか?」
「……ああ」
「実際、やばかった」
 腿から下のない右足をラオコガは軽く叩いて見せた。
「お前に言われて逃げ出したはいいが、あの一撃ではな。今も仲間が死んだことに驚いている」
 ギレイオは顔をしかめた。
「……助かったのはお前とタウザーだけなのか」
「他にも何人か助かったが、皆、半死半生だった。……ナーグは直撃を受けて助からなかったよ」
 記憶の底から豪快に笑う男の姿が思い出され、ギレイオは目を見張った。職人気質で面倒見のよさが顔にも表れているような男に対し、少なからずの好意があったことを今更ながらに思い出して胸の奥が痛む。
「もっとはっきり言うと」
 隣で聞いているだけだったタウザーが苦笑交じりに言う。
「俺の周りの人しか守れなかった。それだけだよ」
 ちらりとタウザーを見上げたギレイオはおもむろに口を開く。
「お前、昔とちっとも変わらねえんだな」
 タウザーは目を丸くした。言葉を失った彼の代わりに、ラオコガが問う。
「思い出したのか?」

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