Piece25



「……今から考えればいい。わしも、お前とどう話せていたのか自信がなくってな」
 ギレイオは手元を見つめていた視線を上げ、ゴルを見つめる。やはり、左目には無機質なそれとは違う光が宿っているように見えた。
 再び二人の会話に入ろうとしたヤンケをゴルは制し、辞去を告げて外へ出ようとした。しかし、扉の向こうに立っていた人影が彼らの動きを止め、見送っていたギレイオの動きも止める。
「……」
 ギレイオが息を飲む前で、ラオコガとタウザーが苦笑を浮かべて立っていた。
「少しいいか」
 幻を見ているかのような心持ではあったが、ラオコガの低い声は生身の肉体を通して発せられたものだった。その後ろから気後れしたように会釈をするタウザーの声にも、確かな肉感がある。それまでギレイオの周囲を素通りするだけだった現実が一気に重みを持って集ったかのようで、言葉を失ったギレイオに構わず、ラオコガはタウザーを引き連れて部屋に入り、代わりにゴルとヤンケは退室した。
 背中で閉じた扉を恨めしげに見ながら、ヤンケはぼそぼそと言う。
「……どうして、私に何も言わせてくれなかったんですか」
 ゴルは詰めていた息を吐く。
「お前はちっとばかし歩くのが速いからな」
「どういうことです?」
「お前、もうギレイオのことは許しとるじゃろ。過去のことも今のことも全て許せると思っとる」
 ヤンケは顔一杯に疑問を浮かべた。
「駄目なんですか? だって、もう充分じゃないですか。これ以上責める権利なんて私にはありません」
「そうだ。わしにもワイズマンにも、ここにいる全員にそれはない。だが、ギレイオにはある」
「でも、そうしたから……」
「それを増悪させた結果がこれまでじゃな。だから、今度は正しく見つめ直す時間が必要なんじゃよ。無闇に責めたてるんじゃなく、一人で向かわせるでもなく。誰かが傍にいるとはっきりわかる今こそ、ギレイオにはその時間が必要じゃ」
 だがな、とゴルは孫を見つめる祖父のような眼差しでヤンケを見つめた。
「そこでお前が許したら、あいつはそれが出来なくなってしまう。……別に許すのが悪いとは言わんよ。ただな、それは少し待ってやれ」
 子供を諭すような言い方はゴルには似合わないとヤンケは思った。頭ごなしに怒鳴りつけてくれる方がどれだけいいか、きっと師はわかってはいない。だが、そうやって精一杯の配慮を含ませて言葉を選びながら語りかけてくれる姿が、ヤンケにとっては親のように見えて何も言えなくなってしまった。

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