Piece25



 ラオコガは晴れやかに笑って言う。失われた部分にはつっかえ棒のように、木製の棒があてがわれており、不格好ながらも足の代わりを果たしていた。リハビリ途中だとラオコガは言い、歩くのにはまだ杖を要する。だから怪我人よろしく引っ込んでのんびりとしていたいのがラオコガの言い分だが、船長がそれでは乗務員にけじめがつかないとアインに強く反対され、しぶしぶここに立っているのだった。杖を片手に立つのも意外と体力を使うので、自動操縦をいいことに舵が彼の杖替わりと化している。
 アインは手厳しいことを言っているわけではない。失った足を見て一度は心を壊したラオコガを見ているからこそ、無理矢理にでも表舞台に引きずり出す必要があった。例え荒療治でも、彼にはそれが一番効くのだと確信して行ったのだし、実際、それは功を奏していた。
「派手というか……義足は作らないんですか」
 腿から伸びるのは一本の棒である。
 ラオコガはかつん、と床を蹴ってみせた。
「これで結構万能だぞ。喧嘩がしやすい」
「そんな喧嘩っ早い方じゃないですよね……」
 飛空艇に乗り込んでから今までの短い期間に、ラオコガの人となりはなんとなくだがわかってきたつもりである。少なくとも、ギレイオほど短気ではないし、ギレイオほど解決策に暴力を持ち込む人間ではない。いたって常識的な人物という評価がロマの中ではなされ、今まで非常識な人間に囲まれて生きてきた自分の人生を思いがけず振り返る羽目にもなった。
 ラオコガは深く息を吐き、もたれていた舵から身を離す。
「……まあ辛いな。いいことはない。ここのつなぎ目がかぶれることもあるし、走るのにはまだ時間がかかる。こういう場所じゃまともに立っていることも出来ない」
「……なら余計に作った方がいいんじゃないですか。今ならゴラティアスもいますし」
 ラオコガはくしゃりと笑った。
「それは願ってもない怪我の功名だなあ。でも、義足を頼む相手は一応決めているんだ」
 足を失った理由を本人から聞いていたロマは、ラオコガの言わんとするところを察して二の句が継げなかった。
 そんなロマに対してラオコガが「まあ大丈夫だよ」と気休めにもならない言葉をかけた時、操舵室の扉が開き、今しがた名前の挙げられたゴルが顔を覗かせる。そしてロマの姿を確認すると、手招きしながら踵を返した。
「来い。ギレイオが目を覚ました」
 誰もが動きを止め、操舵室にいた面々はラオコガの表情を注視した。



 ワイズマンが上下左右に動かす指を、ギレイオの瞳は的確に追いかけていった。
「次は左目です」
 左目を押さえていた手を下ろし、ギレイオは眉をひそめる。
「……正気かよ」
「君に心配されるほどではありませんが」

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