Piece24



 ヤンケが顔をあげ、信じられないものを見るような目でワイズマンを見つめる。それにもワイズマンは構わず、しかし、問うような視線をいくつも受けた以上、説明の必要性に迫られて答えようと口を開いた矢先に、ゴルが強い口調でそれを制した。
「なら逆に聞くがね。自分の親に首を絞められて考えられる頭なんぞ、どこにある?」
 静かな怒りを滲ませた声に、ワイズマンはわずかに視線を伏せて問うた。
「それはギレイオ君自身から?」
「断片的にじゃがな。多くは言いたがらん」
「……押さえつけてでも、聞くべきだったかもしれませんね」
 ゴルは眉をひそめる。
「……そうだな」
 口を開くのも躊躇われるような沈黙が下りた。
 ギレイオの内実の百分の一もわかるかと聞かれれば、彼らはわからないと答えるしかない。危険な目になら、おかわりもいらないほどに一生分の量を既に味わってはいる。しかし、少なくとも自分たちは親に殺される経験はない。どれだけ口うるさかろうが、それだけだった。幼い頃は庇護されるべき存在であり、成長してからは庇護すべき相手となる。
 ギレイオは生まれた時から、その循環から外れたところにいた。
 自らの運命を決定づけたものが全て、己に宿る魔法に由来するとわかれば、もはや人としての営みに戻れないと思うのは道理である。
 戻る道も用意出来ないままに背中を押されてしまった少年は、留まることも許されず、進む道もわからないままに駆け足でここまで来てしまった。
 ただ、逃げるために。
 魔法から、己の罪から、母親の眼差しから──ただ。
「……目は彼の母親が?」
 ワイズマンが静かな声で尋ねた。憚りもするが、聞くべきことを聞くという彼の姿勢は、時に冷酷にも映る。だが、ワイズマンはいつも、極めて真摯な気持ちで尋ねているのだ。聞くべき時に聞かず、誤った道を進む愚かさはこの世にごまんと溢れている。自分はそうなりたくないと思っていたが、ギレイオにはその「聞くべき時」すら用意されていなかった。
 ゴルは溜め息をつき、床に視線を落として答えた。
「……わしが着いた時、ギレイオはどこにもいなかった。じゃが、窪地の近くの岩場はそのままで、ダルカシュが妙な花を栽培しとるという噂は聞いていたから、もしやと思ってギレイオを探すつもりで行ったら、あいつは自分で自分の目を潰しとった」
 ロマとワイズマンは目を見開いた。
「自分で……?」
 これくらいの、とゴルは握りこぶしを作った。
「大きさの石かね。わしが止めなければ死ぬまでやっただろう」
 ゴルは体中の息を吐いた。

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