Piece23



「離しなさい!」
 ホルトがウィリカに掴み掛ると、予想もしない力で振り払われ、ホルトは床に投げ出された。腰をしたたかに打ったホルトは再び起き上がろうとしたが、突き刺さるような痛みが全身を貫き、一瞬、息を止めた。
 蹲って痛みが引くのを待つホルトへ、ウィリカは告げる。
「お義母さんも、そうなんでしょう。ずっと思っていたんでしょう。どうしてそんなことを言うの?」
 自分を正しいと信じて疑わない口ぶりに、ホルトはおろか、踏み込んだ男たちでさえも身動きが取れなくなった。
「私が産んでしまったから、私の責任なんです。ギレイオがこうなったのも、あの人が死んだのも私のせいなんです」
「……違うよ、あんたのせいじゃない」
 身食いをしていたのはウィリカの方だ、とホルトは確信した。
「あんたは悪くない」
「いいえ、悪いのは私です。私がギレイオを産んだから、ギレイオが産まれてきてしまったから」
「およし!」
「だって、そうじゃない! この子が産まれてこなければ、こうはならなかったんだから!」
 けほ、という咳き込む声に、誰もが目を向けた。
 ホルトたちの方へ気が向いたウィリカの手は緩み、締め付けられていたギレイオの喉へ大量の空気が殺到した。しかし、空気を得て明瞭になった頭が教えるのは目の前にいる母親の姿であり、言葉であり、ひいては絶望でもあった。
──ずっと、そう思っていたんだ。
 隠していたものが溢れ出たという印象だった。咳き込むギレイオを見下ろすウィリカの目に狂気などないことを、ギレイオは知っていた。
 母親は真っ当な思考でもって、そう言っている。目の前でギレイオの首を絞めるウィリカと、ギレイオが知っている優しい母親は同じ地平の上に立つ人物だ。正気で言った言葉ほど、残酷なものはない。
「大丈夫。すぐに終わるから、そうしたらお母さんも行くから」
 ウィリカは再び、ギレイオの細い首に手をかけて力を入れた。
「やめ……」
「ウィリカ!」
 戸口で立ち尽くしていた男たちがようやく我に返り、ウィリカの元へ殺到する。しかし、掴みかかる刹那、暖炉から飛び出した炎が蛇のように彼らの腕や体をなめて燃やし、間に横たわった。肉の焦げる匂いや悲鳴がたちまちに騒乱を呼び起こして、ホルトを除いた全員が外へ飛び出す。外で窺っていた人々もただならぬ様子に驚いて遠巻きにしたが、このままにしておくわけにもいかなかった。水の魔法を使える人間を呼んでいる声が小さく聞こえる。

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