Piece22



 息子にかかる時間など更になく、それでもギレイオは構わなかったのだが、ディコックもそれでいいと思っているギレイオへ多少なりとも引け目は感じていた。だから、仕事を眺めることを邪険に扱ったりはしないものの、熱い眼差しにはさすがにたじろぐものがある。
 汚れをまき散らすからと外で作業しているディコックは「ちょっと待ってろ」と言うと家に戻り、すぐに何かを手にして戻ってきた。
「これをばらして元に戻してごらん」
 ディコックは小さなラジオを差し出した。戸棚の片隅に追いやられていた物である。ギレイオはくるくると手の中で回して見ながら問うた。
「これ、壊れてるんじゃないの?」
「壊れてるよ。だけどお父さんの持ってる部品と道具で直せる。それらを使っていいから、ちょっとやってみろ。元に戻せ、っていうのはそういうことだ」
 機械の分解は既に遊びの一つとしてギレイオの生活に定着している。難しいことではなく、組み立ても同様だった。
「俺一人で直すの?」
 ディコックは頷き、工具箱と細かな部品が詰め込まれた箱を側に引き寄せて自身の仕事に戻った。
 父親の手ほどきの元、修理を行ったことはあるが、自分一人で修理したことはない。ギレイオはいくらかの緊張と高揚感を胸いっぱいに詰め込んで、父親の正面に座した。
 一度、没頭すると周囲の見えなくなるギレイオである。ディコックがそんな息子を見て嬉しそうに頬を緩ませるのに気付くこともなく、ディコックがいくつかの品物を片づけた後にようやくラジオの修理を終えた。
 ああでもないこうでもないと試行錯誤した結果は残念ながら失敗に終わり、つまみを回してもラジオは何も語らない。考え込むギレイオに対してディコックは再び分解してみるよう言い、今度は一緒になって修理を始めた。
 父親の手ほどきを受けながら二回目の挑戦を終え、おそるおそるつまみを回す。今度は大音量で語りだしたラジオを前に、ギレイオとディコックは手を叩いて喜び合った。
 そんなことを繰り返す、冬の日々だった。



 楽しい期間はあっという間に過ぎていく。時間の経過を遅らせることが出来たならとも思うが、生憎、ギレイオに備わっているのはそういう魔法ではなかった。出来たとしても父親は喜ぶまい。彼ら家族にはディコックの稼ぎが必要だった。家計の意味ではなく、村における立ち位置の確立のためにである。金銭は如実に物を言い、更にはディコックが町にいるお陰で、花の仲介人の役割も果たしていた。生粋のダルカシュであるディコックなら客の見極めも出来、適切に案内することが可能である。ギレイオが思う以上に、ディコックは重要な場所に立ち位置を作り上げていた。

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