Piece22



 ギレイオは逡巡してから答えた。
「出来れば」
「ほう?」
「でも多分、出来ない」
「なぜ、そう思う?」
 ギレイオは視線を落とした。
「……なんとなく」
 声には茫洋とした影が滲んでいた。パストゥスは大きく息を吐きながら「まあ先はわからん」と言う。
「お前もわたしも、勿論そこの連中も、どうなるかは誰にもわからんからな。案外、どうにでもなることもあるもんだ。そう思った方が楽しくはないか?」
 明るい声に励まされたわけではないだろうが、「うん」と答えたギレイオの声はいくらか上向きだった。
 パストゥスが笑ってギレイオの頭をなでまわすのを見ながら、トピアーリウスは袂に漂っていた光球を掴みとり、まるで離すまいとでもするかのように強く握りしめる。
 それぞれが、それぞれの思いの中で光球の行方を眺める傍らで日が暮れようとしており、最後に残った光球が消えるのを見届けてから、彼らは花畑を後にした。



 冬を迎えると人の到来は極端に減る。寒さは“異形なる者”にも飢えを与えるようで、それは外を出歩くものが少なくなるからであった。寒いからという単純な理由と、“異形なる者”の捕食が活発になるからで、それらは密接な関係をもって比例していたのだが、知ったところでわざわざ餌になりに出ていく酔狂もいない。
 花を求める者は冬の前に得ようと訪れるため、秋は常に来客があった。その中には常連もおり、パストゥスらも新たな常連として時々に来てはギレイオと話していったが、冬となればさすがにそう頻繁に来ることも出来ない。春にまた、と言い残して彼らが去った後、入れ替わりのようにギレイオの父親は帰ってきた。冬場はそういった理由から人手、中でも体力のある男が特に必要とされるため、父親も冬期のごく一部の間は休業して村での生活に専念するのである。
 その間はホルトの風当たりもよく、きつい口調であってもいつもの強さはない。ギレイオとウィリカにとって真冬は一年で一番いい時季であった。
「……お前はおれの仕事の邪魔をしたいのか、それとも増やしたいのか?」
 父親のディコックは目の前の息子に対して、じっとりとした目を向けた。穏やかそうな顔立ちに明らかな困惑が見て取れる。
 久々の再会となったギレイオは、父親から片時も離れなかった。それは単に嬉しさから来るのもあるが、父親の仕事を見たいというのもある。そのため、今のようにディコックが外で機械の修理をしているところを、真正面からじっと見つめるのが日課だった。
「俺もなんかやっていい?」
「おれの質問は?」
 ディコックが手がけているのは村の人間から依頼された物や、時間がかかっても構わないという町の客から引き受けた物だった。どうやら腕はいいらしく、家に帰ってきた時のディコックは自身の荷物よりも引き受けた品物の方が多い有様で、休業中に全て終わるか恐恐としながら毎日を修理に費やしている。更に、合間合間に村の仕事へも参加するので、体の空く暇がなかった。

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