Piece22
この場合、加害者なのはギレイオであるが、ギレイオは人に対しては魔法を使ったことはなかった。
祖母に糾弾されたように、家畜に対して使ったことはある。それも子供たちに、魔法を見せなければ自分たちに対してギレイオが魔法を使ったと言う、などと強要されて仕方なしに行った結果だが、あの場から逃げさえすれば良かった話であることは否めず、非難されて然るべき行いだった。ただ、あの時ギレイオは心底、腹を立てていた。
異種であるからと数をかさに着て、全てのことが正当化されると思っているあの顔が今でも怒りを蘇らせる。ぎりぎりのところで保たれた理性が彼らとギレイオを守ったことだけが、あの瞬間で唯一の救いだった。
「どれを採ってもいいのか?」
パストゥスがギレイオに問い、思案の淵から連れ戻す。
ギレイオは花畑を見渡し、周囲にそそり立つ岩の影になった場所を示した。
「あそこ。蕾じゃなくて咲いてるものなら何でもいい。採り方は聞いてるよね」
「大丈夫」
パストゥスの大きな手がギレイオの頭をなで、アルンドーとラーディクスを引き連れて示された場所へ歩を進める。トピアーリウスは年少であり、花の真っただ中にいては体に障るからとギレイオの側に残された。
ギレイオは後ろに立つトピアーリウスをちらりと見る。すると、思わず視線のかち合ったトピアーリウスは肩をびくりとさせ、慌てて視線をそらした。ダルカシュの中にいようがいまいが、どこでも役立たずの烙印を押されそうな勢いである。
話しかけられても面倒だから、と無視を決め込んでパストゥスらの作業を見守った。村の人間に言われた通りに採取しており、ギレイオはほっと胸をなでおろす。花をちゃんと摘み取ることが出来るかを見守るまでが案内だった。
「……あの」
中性的な響きを持った声がギレイオに向けられる。声変わりを終えたかどうかも怪しいぐらいで、見た目の年齢を軽快に裏切った。
「君は、村の子なんだよね」
「……」
当たり前のことを聞かれても返す言葉はない。穏やかというよりは間抜けに近いのか、と彼に対する印象へ加筆した。
「季節ごとに移動して暮らしてるって本当?」
「……」
「…………聞いてる?」
顔を覗き込まれ、ギレイオは身を引いた。
「聞いてるよ。お前こそ、知ってることを俺に聞いてどうすんのさ」
もはや年上だからという敬意など微塵もない。対するトピアーリウスもそれには構う様子がなかった。
ギレイオから身を離し、ふわりと笑って答える。
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