Piece22



「男だからね! ほら!」
 そう言って腕まくりをしてみせるものの、生白く細い腕が披露されただけだった。瘤を作れるほどの筋肉はないが、女性ほど曲線のある腕でもない。ついでに声は立派に男性のものだった。
「で、その隣がタウザー=トピアーリウス。この中で一番年下だが、まあ君よりは年上だな」
 トピアーリウスは真正面からギレイオを見ることも出来ず、おどおどと会釈して挨拶とした。改めて見るとやはり冒険者という雰囲気はせず、良家の子息とでも言った方がしっくりくる。人見知りをするのか極端に気弱なだけなのか、自らよりも年下の少年の目をまともに見ることも出来ないようだった。
 一族の中にはいないタイプの人間であり、いたとしたら数年と経たずに役立たずの烙印を押されるだろうなとギレイオは考えて顔を背けた。役立たずと言われるだけいいかもしれない。ギレイオはそんな言葉すらかけてもらえる立場になかった。
「で、君は?」
「言わないし、聞かない約束をしたよね」
 規則は一方的に破られた。もはや敬語で取り繕う相手でもない、とギレイオは言葉による体裁を崩す。だが、それはパストゥスの相好を崩すのに役立っただけで、大した影響はなかった。
「そっちの態度がいつもの君か。うむ、実によろしい」
「……」
 返す言葉もなく黙っていると、パストゥスは口の横に手を添えて、ささやくように言った。ただし、元々の声が大きいので、その内容は皆に丸聞こえではあったが、別に構わないといった様子でもあった。
「ここだけの秘密にしておけばいい。わたしも皆も口は堅い。だからここに来ることを許されたとは思わないか?」
 ある程度の判断能力が身についた人間であれば、年齢の長を問わず、ここは黙って下山して彼らを追い出すという賢明な判断が出来ただろう。
 しかし、ギレイオにはまだそこまでの能力がなかった。家族以外の人間、更には外部の人間との交流が極端に少ないギレイオは社交性に乏しいところもあり、強く言い寄られては断る術を知らない。もちろん、そこには「異種の魔法」という抑制も働いており、この時もその抑制が大きく物を言った。
「ギレイオ」
 魔法が飛び出るよりは名前を言った方がいい。二者択一の簡単な選択の結果であり、その時、パストゥスらがどんな表情でギレイオの名を耳にしたかまでは幼い彼にはわからなかった。
「そうか。よろしく、ギレイオ」
 パストゥスが差し出した手を、ギレイオの小さな手が仕方ないといった様子で握り返す。父親の手よりも無骨で大きな手は似ても似つかないが、傷や豆で綺麗とは言い難い様子は父のそれとよく似ていた。

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