Piece22



 空は明るく、太陽はようやく天頂へさしかかろうというところである。出来ることならもう少し距離を稼いでから昼食にしたかったが、これでは動きようがない。取るものを取って回復してから、一気に行くことにした。
 ギレイオがそのように提案すると、これにも二つ返事で承諾の旨が返ってくる。それぞれ持参した簡単な食事を済ませ、休憩がてら談笑する彼らから少し離れて立つギレイオを認め、壮年の男が声をかけた。
「こっちで一緒に休まないか」
 体のパーツがどれも大きく、立てば壁が眼前に迫るような大きさの男である。本よりも斧を振り回しているほうが似合いそうだとギレイオは思っていたが、幼いギレイオにかける声は柔和で優しいものだった。
「ここでいいです」
 子供らしからぬ硬質な声でギレイオは応える。外の人間にギレイオは慣れておらず、今は静かな自身の魔法が何をやらかすかわかったものではない。警戒をしなくとも、避けられる危険は避けておくべきだと考えていた。対外的な意味としてである。
 だが、男はそれを「子供らしさに欠けた謙虚な姿勢」と、かなり善良な受け止め方をした。彼らとてギレイオの魔法を知らないわけではなく、ギレイオを紹介された時にその威力を知らされている。目の前にいる警報装置の存在を教えることで一つの抑止力としているようで、実際、話を聞いた彼らはひととおりの感情表現をして見せた。
 どれも目新しいものではなく、ただ、一点だけ違うところを上げるとすれば、恐怖の色が薄かったことだろうか。そのあたりはさすがに冒険者だと内心で拍手を捧げたのだが、人好きのする笑顔を浮かべた男からは、そういう場面に遭遇する姿が想像出来ない。彼に限らず、他の三人にしても同じことが言えた。無論、あのおっとりした少年も同様である。
「名前は?」
 ギレイオは黙って答えた。
 花を求める者は拒まないが、必要以上の情報は与えない。それが規則であり、彼らにも充分な説明がなされているはずだった。しかし、男は気分を害した風でもなく、自らを指さす。
「わたしはヒュラム=パストゥス」
 これは、と隣に座した長身の若者を示す。
「ジャン=アルンドー。なかなか見かけないのっぽだ」
 黒髪の青年は顔をしかめてパストゥスを見やる。
「伸びたくてこうなったわけじゃありませんよ……」
「背の高さをコンプレックスにしているおかげで彼女もいない」
「やめてください」
 パストゥスは自分の向かいに座った若者を示した。
「そっちはレオノーラ=ラーディクス」
 あちこちに飛び跳ねた茶色の癖っ毛に、くりくりとした丸い目だけを見れば少女のようで、ついでに名前も女のようだった。
 ギレイオがきょとんとして見つめているのに気づき、ラーディクスは慌てて言い募る。

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