Piece22



「……その目やめなさい」
 ウィリカに言われ、ギレイオは気まずそうに顔を背けた。
「あんたのお祖母ちゃんなんだから」
「俺のこと、一度も孫とか思ったことないと思うよ」
「血は水より濃いって言うでしょ」
「……水の方がいいってこともあるかもよ」
 これには答えず、ウィリカは鍋に蓋をする。そして炭をいくらかよけて、鍋にあたる火を弱くした。
「餌どうするの?」
 何故だか自分が悪いことをしたような気がして、ギレイオはおそるおそる尋ねた。しかし、ウィリカは頬杖をついて息子を見上げ、愛嬌のある笑顔を見せる。
「どっちがいい?」
「え?」
「ここで鍋の番をするか、道案内をするか」
 ギレイオは首を傾げる。
「……意味わかんない」
「鍋の番は文字通り、ここで鍋を見張って豆が焦げ付かないようにすること。道案内も文字通り、ただし案内するのは余所から来た人」
 余所から、と言われてギレイオはぴんときた。
「花?」
「どっちがいい?」
 ウィリカはにっこりと微笑む。
 動き回りたいさかりの男の子が選ぶ道など、一つしかなかった。



 ギレイオは先導しながら、ちらりと後ろを振り返った。列がばらつき、案の定、遅れが出ている。足を止めて最後尾の人間が追いつくのを待ってから、今度は速度を緩めて歩き出した。
「悪いね」
 真後ろを歩く若い男が言う。いいえ、と短く答えてギレイオはごつごつとした岩の道を進んだ。
 辺り一面岩だらけの斜面で、平地と言える場所はない。ダルカシュの面々で作り上げた階段でその斜面を上らなければならないのだが、これが普通の人間には随分と堪える作りなのである。移動を主とするギレイオたちには些細な道でも、余所から来た人間にすれば立派な登山道であった。しかし、ここを通らなければ目的地には辿り着けない。外界から隔絶された場所であるからこそ、ダルカシュはここを選んだのだ。
「少し休みますか?」
 急ぎならこのまま行きますけど、と言いかけたギレイオを遮って、後方からは満場一致で休憩を求める声があがった。
 四人からなる集団で、長らしい壮年の男を除いて全員が若く見える。中でも飛びぬけて若いのが十代半ばを越えたかどうかというぐらいの見た目で、体力は一番ありそうなのに一番動きが鈍かった。他が旅慣れているように見える一方で、際立ってそう見えるだけなのかもしれないが。
 エデンから来たと言う旅装は冒険者とさして変わらず、一通りの武装もしている。見た目も出自も括目するところはないが、自分か母親を案内に寄越すあたり、ダルカシュとしては何かしら警戒するべき相手なのだろう。花への案内は手の空いた者がやるようになっていたが、こうして怪しい人間が来た時にはギレイオらが優先して呼ばれていた。ギレイオには異種の魔法が、ウィリカには火力属性方程式魔法ながら強い攻撃力が備わっているからであり、怪しい者には同類を当たらせる、こういうぬかりのない判断をするところもギレイオは案外に好きだった。
 とはいえ、これまでの岩道で疲労困憊の面々を見ていると警戒する気も薄れてくる。一番年長そうな男は座り込んでいる始末で、立ったまま休むように言えばよかったかとギレイオは微かな後悔を滲ませた。

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