Piece22



 かねてより交流のあった人はホルトを避けるようになった。交流が続いている友人もいるが、腫物を触るようである。親類はホルトに同情を寄せたが、彼らがウィリカを糾弾すると息子が庇い、その度にホルトは自身が悪者になっていくように思えた。同情を頂いたところで彼女に「こちらに来い」とも言わないあたり、ただの捌け口になっていた面が窺え、そのことがホルトを更に追い詰めた。
 結果、ホルトはそれらの鬱憤の全てをギレイオとウィリカに向けた。夫は既になく、子供たちもギレイオの魔法を恐れて近づかない。誰も彼もが自分を孤独にする、とホルトはますます引きこもるようになり、元より蓄積されていた鬱屈とした気持ちは濃度を強くして彼女の心を絡め取った。
 そこから逃れるには家を出るしかなく、しかし、身を寄せる相手がわからない。歪んだ循環は出口を探しながら巡りを速くするだけであり、そこから生まれるものなどギレイオとウィリカに対する強烈な差別意識でしかなかった。自分は彼らとは違う、と思うことで心に防波堤を築き、その態度で以て周囲からの理解を得ようとしていた。
──そんなのは無理だ。
 外へ出ていくホルトの背中を見送り、ギレイオは年齢に合わない冷めた心持で呟いた。
 自身や母親に対する恐れは正当だとギレイオは考えている。なにしろ、魔法の所持者であるギレイオ本人が恐れているのだ。外部の人間が恐れなくては、鈍感としか言いようがない。
 魔石や魔晶石を持たなければいいとも思ったが、父親は頑としてその言葉を聞き入れなかった。一生、持ち続けなければならないものなら、使い方を知っておくべきだというのが父親の言である。事実、それは今のギレイオにとって大きな救いになっていた。感情に引きずられやすかった魔法を今では制御することが出来るし、いつでも使えるということは、いつでも「人間をやめられる」ということだった。周囲の恐れる視線に沿った化け物に変わりたければ一線を越えるがいい──ギレイオはそこまで、皆のことを嫌いにはなれなかった。
 本当に小さな集団である。困ったことがあれば皆で知恵と物を持ち寄って解決し、喜ばしいことがあれば皆で祝う。移牧民であるために町の子供ほど恵まれた暮らしは出来ず、家族の内情や秘密にはお互いにほとんど垣根がない。全て筒抜けで、昨晩叱られた内容で翌朝は別の大人に怒られるというのもままあった。
 毎日が生きるための労働に費やされ、それは決められた輪の中で循環し続ける。趣味や楽しみなどに没頭していられるのは子供でもわずかな時間しかない。
 つまらない風景、つまらない人間たち、つまらない日常──それでも、飛び出してしまいたいと思うほどには嫌いではなく、飛び出せる力もギレイオにはありはしなかった。
 追い出されないだけマシと思わなければならないのだ。彼らにはその分別がある。だが、ホルトにはない。彼女はギレイオが生まれてから今日に至るまで、被害者である自分に縋っていた。

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