Piece21



 ギレイオの捜索を始めてからこっち、気の緩まることのなかったロマはふっと頬を緩ませる。ゴルの落ち着いた態度と日常生活への復帰は、二人の気持ちを宥めるのに大きな力を見せた。
 そしてそれは驚くべきことに、ワイズマンにしても同じ効果を発揮した。
 ゴルの言った通りなのかギレイオの捜索の続行なのか、おっかなびっくりロマが魔法学校へと探しに行き、近くにいた生徒を捕まえて聞いたところ、ワイズマンは学校内にいるとのことだった。皆、はっきりと「ワイズマンだ」と断言するあたり、師の悪評か好評かは随分な実体を伴って学校内を闊歩しているらしい。そして往々にして伝言よろしく恨み言を押し付けられるので、不逞の弟子としては悪評の高さを実感するしかなかった。
 態度の柔らかい生徒の一人に頼み込んでワイズマンを呼び出してもらうと、どうやら学校内で更に何かを調べていたようだった。氷点下の表情は仕事を中断された時に見るものであり、使者よろしく遣わした生徒は一体どんな言葉の針を刺されたのか、戻ってくる頃には随分と態度が豹変していた。
 この状態でゴルに会わせたらどれだけの嵐が吹き荒れることやら、と観念して連れて帰ると、ロマの不安は大きな空振りを見せる。
 表面的には喧々囂々、出会い頭から再会を喜ぶでもなく、一斉掃射の言葉の応酬が始まったわけだが、それぞれの弟子はそれぞれの師の本質をしっかり見抜いていた。
 ロマもヤンケも止めるでもなく、老人と青年の大人げない喧嘩を放置し、夕飯の用意を手際よく進める。そうして簡単な夕食が出来上がると、喧嘩をしていた二人はぴたりと口を閉じ、今度は食事のために口を動かすことに専念した。傍目には険悪なやり取りをする仲でも、この程度は挨拶の内なのである。
 お決まりの挨拶をすれば準備運動も終わり、次は本番とばかりに第二戦が始まるのが常だが、今回は状況がそれを許さなかった。また、ゴルもワイズマンも差し迫った現実を無視するほど子供ではない。
 弟子二人が片付けを済ませるのを認めると、ゴルは先刻のヤンケへの指示に付け足す。
「グランドヒルとエデンの間の地図だ。グランドヒル寄りのな」
 それだけでヤンケには、ゴルが何をしようとしているのかがわかった。
 表情を硬くして端末に向かうヤンケを見つめてから、ゴルはワイズマンとロマに向き直って嘆息する。
「人の顔を見て溜息とは随分ですね」
 こんな時でも一言を忘れない師の気概が、ロマにとっては心底、羨ましいものに映った。一方のゴルも負けないが、声に張りは見られなかった。
「そりゃそうじゃ。話して楽しいもんでもない」
「それでは、聞いて楽しいものでもありませんね」
「やめるか?」
 ヤンケが端末を抱えて横に座る。ゴルを窺う顔は不安げだったが、弟子を見返す師の表情を見て、ヤンケは息を吐いた。

- 366 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -