Piece21



「昨日、唐突に連絡を寄越したと思ったらすぐに来いなどと言いおって、あれは人を犬か何かとしか思っとらんな」
「それでも来たんですか!?」
「お前、さっきからいちいち失礼だの……」
 悪気のない反応なだけに、ゴルも毒気が抜かれたようだった。
「だって、先生がまさか……死んでも会いたくないって言ってたのに」
「わしとてご免じゃ」
 ゴルは手近な椅子に座り、溜め息をつきながら腕組みをする。
「だがな、不逞の弟子が馬鹿を働いたと聞いたら、一応は来てやるのが師の務めというやつじゃろう。……わしに連絡を寄越したあたり、奴も相当参っとるようだしな」
 で、とゴルはヤンケとロマを交互に見る。
「とりあえず、一から話してくれ。奴からはギレイオの件で話があるから来いとしか聞いとらん」



 一部始終を聞き終わる頃には昼を過ぎ、昼食を取る間も惜しんで聞いたゴルは、その顔に明らかな苦渋を滲ませた。
「……」
 黙りこくって腕組みをし、じっと床の一点を見つめる。答えなどそこから浮かぶはずもないが、疲弊しきった二人の視線から逃れるためでもあった。
 話を聞いたゴルの胸には暗い影が下りていた。
 力を込めて目を閉じ、一気に解放するとゴルは息を吐きながら言う。
「本当に、もう心当たりはないんじゃな」
 ヤンケは頷き、ロマは「ありません」と答える。
「そうか」
 ゴルは顔をしきりになでつけ、そのまま頭をかいて後頭部に手をやった。長旅で疲れたというのもあるだろうが、話を聞いただけでそれ以上の疲労を背負わせてしまったようである。たった数時間で一気に老け込んでしまったようだった。
「ヤンケ」
 食い入るように見つめていたヤンケを見据える。
「お前、地図出せるか? 昔と今の」
「出せますけど……」
 ゴルは頷き、今度はロマに向き直る。
「お前はあの大先生を呼んで来い。おおかた、わしが来るから逃げたんじゃろうて」
「ギルの居場所の見当がつくんですか?」
 さあな、と胸のつかえを吐き出すようにゴルは深い呼吸をし、続ける。
「あとな、とりあえず大先生を呼んだら飯にしよう。腹が減ってはなんとやらと言うしな」
 ロマへ食事の注文をするあたり、ヤンケの料理の腕に大した期待をしていないことは明らかだった。

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