Piece21



 窓の外が薄暗くなりだし、ロマに休んでいるよう言ってヤンケは立ち上がり、ランプに明りを灯した。揺らぎながらも暖かな光が夜闇を払拭し、次にカーテンを閉めようと窓に向かう。すると、薄暮にまぎれて歩いてくる人影が見え、ヤンケはロマを振り返った。
「帰ってきましたよ」
 誰の事を指しているのかは明らかで、だらしなく休んでいたロマは慌てて脱いだ靴を回収し、自分の机の下に突っ込んでいた靴へと履き替える。さすがに履き通しだった靴に再び足を入れる気にはなれないようだ。そして着替えに上がりかけたところで扉がゆっくりと開き、ロマは何でもないような調子で出迎える。
「おかえりなさい、先生」
「靴を脱いでお寛ぎのところ、申し訳ありませんね」
「え」
「左右逆ですよ」
 ワイズマンはロマの足下を指さすと、自分の椅子にどっかりと腰を落ち着けた。だらしなく足を投げ出して天井を仰ぎ、胸の上で手を組んで体中の息を吐き出すさまは、ロマよりも相当な疲労が溜まっているように見える。
 指摘された靴の左右を交換してロマが階段を上ろうとした時、ワイズマンがぽつりと呟いた。
「ついでに二階を片づけておいてください」
 途中で足を止め、ロマは尋ねる。
「何か探し物ですか?」
「明日、来客があります。少なくとも一日か二日はいるでしょうから、ヤンケさんには二階へ移動してもらって、君と客人は一階で寝起きしてもらいます」
 現在、押しかけた身だからとヤンケは寝袋を借りて一階で寝起きしている。一応は遠慮を見せたのだが、本音を言えば二階の物の多さに辟易したからというのもあった。
 有無を言わさぬ生活様式の変更にヤンケとロマは戸惑いを隠せなかった。思わず階段を下りてロマが問う。
「誰が来るんですか?」
 相手によっては二階どころか一階も掃除しなければならず、さもしい食糧の調達も考えなければならない。それをするのはワイズマンではなくロマだ。
 さすがにワイズマンもロマの内心には気づいており、しかし、投げやりな口調で「もてなす必要のない客です」と言い返しただけだった。
 首をひねりながらもロマはそれに従い、ヤンケはワイズマンの乱暴な口ぶりから「まさか」とは思ったが、実現するとも思えずに憶測を振り払う。
 しかし翌日、ワイズマンはロマとヤンケに留守を言い渡し、何かから逃げるようにさっさと出て行ってしまった。のんびりしている場合ではないことはワイズマンもよくわかっているはずなのだが、わざわざ二人も留守に置くあたり、余計に来客の存在が重みを増してくる。そこでヤンケが昨日の推測を口にしてみたのだが、やはりロマも笑って冗談で済ませただけだった。ワイズマンの来客にしてはあまりにも現実味がない。

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