Piece21



「ただいま戻りました」
 ロマが疲れた様子で帰ってきた。声に気づいて端末から顔を上げたヤンケは、射し込む陽光が強烈な白から暖かな茜色に変化していることに気づいた。時計を見れば、既に夕方を過ぎている。慌てて端末から離れ、小さな炊事場に立とうとしたヤンケをロマは「いいよ」と言って制した。そして手に持った小さな紙袋を掲げる。
「時間もないから買ってきた」
「すみません」
 ともすれば生活に必要な作業すら忘れて没頭しかねない彼らは、ギレイオを探す傍ら、真っ先にその作業を当番制にすることで対策とした。でなければ探すどころか自身の健康まで危うくなると踏んだからである。炊事、洗濯、掃除の最低三つを日替わりで行おうと決めたのだが、二日目にしてワイズマンが脱落し、三日目の今日は食事当番であるヤンケが夕飯の支度を忘れてしまった。結果、元から家事に精通していたロマのみが当番をこなしている一方、ロマ本人も連日に渡る捜索で疲れ果て、その精度にも粗が出始めていた。元より散らかっていた屋内は更に混迷を極め、食事は足りない食材を補う余裕もない。元から買って食べる習慣があったので抵抗は誰にもなかったが、そればかりが続くと表情も冴えなくなるものだった。
 唯一、清潔を保つという理性だけは強く働き、洗濯は毎日行われている。ヤンケは大急ぎで外に干していた洗濯物を取り込み、帰ってきて座り込んだまま動かないロマに冷たいお茶をいれてやった。
「いやー……あいつ逃げるの本当に天才的」
 ぼやくように言い、ロマは差し出されたお茶を一気に飲み干す。途端に、乾いて疲労しか残されていなかった体がしゃっきりとし、うつろだった目に光が戻る。おかわりのお茶を注いでヤンケが渡してやると、ロマは再び一気にコップを空にした。顔にいくらか生気が戻る。
「先生はまだ?」
「今日は学校の先生をあたるとか言ってましたよ」
 ワイズマンよりも早くに出て近郊の街を探していたロマは、渋面を作りだす。
「大丈夫かなあ、それ……」
「大丈夫じゃないですか? どちらもいい大人ですし」
「年齢は良識のあるなしに関係ないんだよ」
「……はあ」
 前日、駄目元で生徒に聞き込みをしていたワイズマンが例によって諍いを起こして戻ってきたことを思えば、教職である教師ならまだしも、という考えが首をもたげたが、ロマの経験則はその限りではないと訴える。
 ただ、手段を選んでいる場合ではないことは事実であった。だからこそワイズマンもあえて学校に立ち入ったのだろうし、教職クラスとなれば魔法によって足取りを掴むことが出来る者もいるかもしれない。無闇に諍いを起こすほど馬鹿ではない師が、この時間でも帰ってこないことがその証明であるとロマは信じたかった。

- 361 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -