Piece20



「想像出来ない? エインスが部屋に籠るっていうのが」
 ドゥレイに問われ、ディレゴは見返した。
「……お前なら想像出来るのか」
 ディレゴを見上げていたドゥレイは素っ気なく「さあ」と答える。
 しばらく口をつぐんで見つめていたディレゴは、声を潜めて問うた。
「……サムナはどうだ」
 尋ねながらドゥレイが腰かけるベンチに座る。両者とも端に座り、歩み寄る気配はない。
「変わりはない。今日も花に水をやってる。声もまだ出せないみたいだ」
「そうか」
 ドゥレイはディレゴの方を向く。
「前から聞きたかったんだけど」
 ディレゴは顔をあげた。
「声の鍵を開けないのは本当に時間がかかるから?」
 ディレゴは目を見開き、それから顔を歪めた。そして自身を見据えるドゥレイの視線から逃れるように顔を背ける。言葉による答えはいらず、ドゥレイも視線を前方へ戻す。
「……どれだけ時間がかかってもいいけどね。俺には関係のないことだし」
 ディレゴは視線を足元へ落としたままである。聞いているのか聞いていないのか、どちらにしても耳がついているなら声は届いているだろう。ディレゴはそういう人間だとドゥレイは思っている。彼は必要の有無に関わらず、色んな声を拾い過ぎるのだった。
「強いて言うなら、俺はサムナとエインスが話すところを見てみたいよ」
 ふと、ディレゴが顔を上げる気配がした。ドゥレイはそちらを見ずに続けた。
「どういう会話をするんだろうね。エインスの方がいくらか話は達者かもしれないけど」
「お前は……」
 あえぐように問う声が聞こえ、ドゥレイはようやくディレゴの方を向いた。
「お前は、何を考えているんだ」
 ドゥレイは感情を消した顔で答える。
「それは、ディレゴが一番よくわかっていると思っているんだけど」
 端的な答えにディレゴは言葉を詰まらせ、それ以上言い募ることはしなかった。膝の上で握りしめた拳は、力が入りすぎて白くなっている。
 ドゥレイは目を細めてそれを見つめた後、中庭に広がる風景を眺めてぽつりと呟いた。
「この庭って、誰が世話してるの?」
 脈絡のない問いはディレゴを面食らわせたが、感情の渦から引き上げるのには最適だった。拳に入れた力を緩め、落ちてもいない眼鏡の位置を戻す。
「ここの職員だよ」
「庭師っていう仕事もあるよね」
「機密の保持には出来るだけ内部で全てを完結させる必要がある。それがどうした?」
「うん……」
 中庭に咲く花々は季節に応じた花を咲かせる。寄せ植えに適した種類ならそのように、色合いや背丈も考えて植えられた植物たちはどれも整然としている。自然物にはない統一感だが、植生を考えた配置は人工的なものを超えた正しさを感じさせるものがあった。

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