Piece19



「──…わたしについての良し悪しの判断は、君自身が考えた末のものであっても、あまりあてにしない方がいい」
「そうかもしれません。でも、いい人だと思います。私が知るネウンさんは、という意味ですけど」
 これには黙するのみだった。
 ヤンケはネウンを見据え、続ける。
「こないだの賭け、もうちょっと待っててくれますか。今日はいきなり飛び込んで、何の用意もしてこなかったので。でも、ちゃんと読めましたよ、私」
「……そうか」
 大きな体に溜めこんだ息が全て吐き出されるのではないかと思うほど、ゆっくりと息を吐き、ネウンは答えた。
「それは良かった」
 はい、とヤンケは朗らかに答えてみせる。しかし、目にはうっすらと涙が浮かび始めていた。
「だから、一つだけお願いしてもいいですか」
 まるでその言葉が来るのを待っていたかのように、ネウンはじっとヤンケの言葉を聞く。
「サムナさんを返してください。でないとギレイオさんが、このままだと辛すぎます」
 止水域を越えた涙が零れ、ヤンケは手で拭いながら続けた。
「ギレイオさんぼろぼろでした。あんなギレイオさん、私、見たことがありません。体も心も限界まで擦り減らして、それでも、どうでもいいって顔をして」
「……それは、彼の怠惰が招いたことじゃないのか」
 ヤンケは真っ赤な目をネウンに向けた。
 あくまで事実を告げるように、ネウンは淡々と言う。
「彼がやるべきことを怠ったために、そうなった。自業自得という言葉があるな。もしくは因果応報という言葉が妥当かもしれない。ひどい状況なのだろうとは思うが、わたしには同情も何も湧き起らない」
 ひゅう、とヤンケは息を吸い込んだ。
「それはネウンさんではなく、サムナさんに是非言ってもらいたいことです。喧嘩は当事者の話し合いで解決することです!」
 きっぱりと言い放ち、勢いに任せて続けて言い放つ。
「そうです、悪いのはギレイオさんです! だからお前の所為だって、サムナさんは自分で言うべきです!」
「その言葉が彼の中になかったとしても? そういった認識すらなかったとしても、その言葉は出てくるだろうか」
「出てこないなら私が教えます! わからないなら他の誰かが教えてくれるはずです! サムナさんは全部、自分だけで考えて持って行っちゃったんです! 誰にも言わないで! ……そんなの、ずるいじゃないですかあ」
 勢いを失ってヤンケは項垂れる。詭弁であることが自分でよくわかるだけに、ただ聞くだけの姿勢を崩さないネウンの態度が、余計に辛く感じられた。それしか出来ないとネウンは言うが、それだけが出来る強みを彼は知っているのだろうかとヤンケは少々捻くれた考えを持った。自分には出来ないことだから、出来る相手の挙動の端々がよく見えてしまう。

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