Piece19



 ネウンとサムナはやはり似ている。物理的にも似ているのかという点についてはヤンケには確かめようもないし、そのつもりもなかった。それが結果、ギレイオに災難をもたらしていたのだとしても、兄弟子には申し訳ないとしか言えない。似ていることが重要なのではなく、ネウンが敵ではないと感じたことが、ヤンケにとっては一番大事なことであった。
 経験上、ヤンケは人の悪意には敏感だった。ネウンのように感情の読めない相手が悪意を抱いたとしても、それは果たして「悪意」と呼べる物なのかは未だに疑問が尽きない。抱いた当人が悪意と思って行動しなければ、それは日常生活の一部に帰結するのみである。ネウンには心情を透かし見ることが出来るほどの行動の乱れがないため、読心術も有効ではない。
 ヤンケは概ね、そうした人の挙動の端々で悪意を察知し、危険を避け続けていたのだが、ネウンにはそれが出来なかった。
 ネウンの表情は読めず、感情もおそろしく乏しい。自律で動く人形と言われても違和感が邪魔をしない。サムナも似たようなものなので、実際そうなのだろうとヤンケは見当をつけている。
 しかし、二人は「無駄」を行う。
 感情を排し、結果のみをただ一つの真実として行動するのなら、彼らのような存在が求めるのは正確かつ早く、結果へと到達することだった。無駄とされる事は可能な限り省略し、合理的な判断だけが彼らを律する。だが、サムナとネウンの二人は違う。
 片や、あの問題溢れる兄弟子を相棒に据え、更にはギレイオの過去にまで興味を持つ。片や、前回に続いて今回も、ヤンケの話を聞いてくれる。どちらにも二人なりの求めるべき結果があり、そのための過程として選んだ手段なのだろうが、ヤンケから見て、それらは人が持つ「好奇心」に似ていた。
 知りたいという欲はヤンケもよく知るものであり、それは人を素直にさせる。自らを飾り付け、重々しい恰好で臨むものではないからだ。だから、好奇心は人を身軽にもさせてくれる。心身共に軽く、どこへでも飛び立てるように。
 だから、自分はネットの仮想空間を空に見立てたことをヤンケは思い出した。
──この人は敵じゃない。
 理解しようとする不幸は、理解出来る幸福への侮辱には決してなり得ない。足し引きでマイナスになったところで、ヤンケは後悔しないと今ならはっきり言えた。
 不幸であっても幸福であっても、こんなに広げた空がそれだけで狭くなることは考えられない。広げたのは自分自身なのだ。
 そう思った途端、ヤンケの中で固く閉ざされ、錆びついていたものが外からの力で一気に開かれる。
 思考の連鎖に囚われ、泣くことでしか自浄出来なかった胸の内にぽっかりと穴が開いたようだった。重く、澱のように凝って離れなかったものが一瞬で吹き飛んでいく。
 ここはこんなにも、広かったのかとヤンケは内心で感嘆の息をもらした。
「……ネウンさんは」
 ネウンはじっと耳を傾ける。
「やっぱりいい人です」
 じっくりと飲み込むようにその言葉を聞き、ネウンは静かに言った。

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