Piece19



「ほっといて下さい。ネウンさんには関係ありません」
「そうだな」
 あっさりと頷かれ、ヤンケはネウンを見返した。
「……感心しないなら、そこは叱るとかしないんですか」
「関係がないのは道理だ。わたしは物を言う立場にはない。その通りだから肯定した」
 ヤンケは視線を落とし、ネウンに見えないところで眉をひそめた。
「じゃあ、私が理由を話したら、否定してくれますか?」
 ネウンはしばらく黙っていたが、やがて低い声で「否定は出来る」とだけ答えた。
 座るのも忘れ、ヤンケはぽつぽつとこれまでのことを話しだした。その間、ネウンの顔を見ることは出来ず、じっと足下を見つめたままぼそぼそと口を動かす。そのため、ヤンケの声は非常に聞き取りづらいものだったが、ネウンは何も言わずに耳を傾けているようだった。
 日記の解読のこと、ギレイオのこと、ワイズマンに言われたこと、そして自分が言ったこと。
 思考を持て余していた時はあれだけ煩雑な印象を受けたものが、こうして口にすると思わぬほど理路整然と出てくる。それは不思議な感動と落ち着きをヤンケに与えた。話せば話すだけ言葉は整頓され、言葉に不随していた感情もようやく出口を見つけたように落ち着きを見せる。
 話しながら、どうしてだろうとヤンケは考えていた。落ち着いてくると、足下を見ていた目は段々と明るさを求めるようになり、ネウンの膝、腰、胸、と来て、遂には瞳を直視して話せるようになっていた。
 ネウンの身長は高く、見上げるには真上を見るような姿勢になる。
 その大きな体の背景に広がる作り物の空も、自然と視界に入ってきた。
 全て話し終え、ヤンケは祈るように組んでいた手を解く。頑なだった心が解放されていくようだった。
「……どうして、ネウンさんにはこんなにすらすら話せるんでしょうか」
「わたしが聞くことしか出来ないからだろう。君は理由を話すというより、自分の思考に整理が追いついていないようだった。その点でわたしのような機能は、今の君にとって有効だったと言える」
「機能なんて、そんな機械みたいなこと言わないでくださいよ」
 機械みたい、と言って、サムナのことが思い出された。
 やはり、サムナはネウンとよく似ている。不器用な言い方しか出来ないところや、感情に乏しい顔も──本当によく似ていた。
「……ネウンさん、私の知っている人によく似てます」
「わたしが人に?」
「いえ、人って言うとちょっと語弊があるんですけど。……でも似てるんです。目とか話し方とか、一番は雰囲気ですけど。あ、でも、その人の方が今のネウンさんよりは若いです」
「……なるほど」
 ネウンは何かに得心がいったようだが、ヤンケはそのことには気づかなかった。
「ずっと思っていたんですよ、似てるなあって」
 次いで、ヤンケはふと思いつき、その名を口にしてみた。
「……その人、サムナさんっていうんですけど」
 言いながらネウンの表情を盗み見る。しかし、顔には何の感情も浮かんではおらず、ネウンは相変わらず平坦な口調で答えた。
「そうか」

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