Piece3



「なしだ。アマーティアの遺産だからな」
「……遺産ね」
 面白くなさそうに呟いてからドゥレイは男の前を歩き出す。慌ててその背中に声をかけるが、ドゥレイは手をひらひらとさせただけだった。
「大丈夫だよ。全部刷り込んだ。二人にも言っとく」
「……お前まで、私を蔑むのか」
 先を行くドゥレイは足を止め、男を振り返った。
「蔑まないよ」
 赤い絨毯の廊下に、異様に大きく声が響く。窓から差し込む陽光が二人の間を等間隔に照らし出し、窓の横に立つドゥレイの顔も照らした。
「哀れには思うけどね」
 言い放ち、歩き出しながら続ける。
「ひどい顔してるよ、ディレゴ。寝てないだろ」
 ドゥレイはゆっくりと歩調を元に戻し、ディレゴから離れていく。
 彼はうつむくことすら忘れていた。
 窓と窓の間に立ったディレゴに、光は与えられなかった。


+++++


 街の熱気は深夜になっても冷めることを知らない。戦士は“異形なる者”への勝利に酔い、そんな彼らの熱気に煽られるようにして民衆も酔っていた。それは被食者が捕食者に、自身の生存権の行使をした歓喜による陶酔だった。
 行き交う人々の手にはコップが握られ、拳を振り上げ赤ら顔で高らかに讃歌を歌う。見知らぬ人間とも肩を組み、声を交わし、その喜びを共有しようとしていた。
 そんな中、力一杯背中を叩く男に愛想笑いで応じ、ギレイオは足早に人の間をかきわけていく。
 その後ろを歩きながら、サムナはギレイオの言葉を頭の中で繰り返していた。


「……これは」
「コート。見りゃわかるだろ」
「じゃなくて……」
「そのまんまじゃ怪しんでくれって言ってるようなもんだろ。だから。羽織るだけだし、かっこいいじゃねえか」
 袖のない、本当に羽織るだけの素朴なコートを手に、いまいち納得のいかないサムナだったが、否定しきれるだけの材料がなかった。
 左腕が欠けているなど、神殿騎士にかっこうの情報を自ら流すことになる。関わりあいにならずに済むのならと半ば強引に納得した時、更にサムナを仰天させる言葉がギレイオから繰り出された。
「そんで、次はタイタニアに行く」
 ギレイオの口からその名が出るとは思っていなかったサムナは、もう一度ギレイオの声を再生し、そこに言葉を当てはめていく。
──タイタニアに行く。
 差別と全ての中枢である街。ギレイオが最も嫌った街のはずだ。

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