Piece17
遠目で見ていた以上にギレイオの負傷は激しく、満身創痍という言葉を使ってもまだ足りない。頭や腹部の傷も深かったが、特に致命的なのは右手の方だろう。爆発に巻き込まれでもしたのか、指が繋がっているだけでも奇跡のようなもので、火傷と裂傷でひどい有様だった。どうしてそうなったのかは、結局、サムナには見えていなかった。
暗い下水道の中でも顔色の悪さはよくわかるほどで、青白い唇の間からは虫の息ほどの微かな呼吸がもれる。
冒険者という立場柄、怪我などは日常茶飯事で、荒事にも随分と首を突っ込んできたものだが、その中でも、今回は飛びぬけてひどい状態だった。
何故かギレイオには遠いものだと感じていた「死」の一文字がにわかに輪郭を帯び、サムナは再びギレイオを担ぎ上げようとする。
その時、かすれた声が細い息の間からもれ聞こえ、サムナは顔を近づけた。
「なんだ」
ギレイオは口を動かすのみで、声までは聞こえてこない。もはや意識もあるのかどうかも怪しく、一刻も早く医者に連れて行かねばとギレイオの体を抱え上げた時だった。
「……もう、いい」
サムナの耳に顔が近くなったことで、その声はよく聞こえた。
かすれ、時に血を含んで水の中にいるような音も混じるが、それは本当によく聞こえた。
もういい、と譫言のように繰り返すギレイオを、サムナは抱え直す。
「……」
呪いの言葉などという非現実的な物があるとすれば、これがそうだろう。この言葉が、ギレイオをいつまでも縛り続ける。
サムナは再び走り出した。
逃げるように、辿り着くように──決めたように。
気温は日ごとに下がる一方で、過ごしやすかったと思う時期を過ぎればそこにあるのは冬である。朝晩の冷え込みだけは一足飛びに冬を迎えようとしていたが、昼間は太陽が昇ればまだ暖かい。
それでも、グランドヒルは周囲に山を抱えているだけあって、余所の街よりも一層、冷え方が増すのは仕方のない話だった。太陽が昇る日中でも、風が吹けば肌寒さを感じるのだから、朝靄が空気を満たす早朝ともなれば、身をすくめて歩きたくなるような冷たさが体を包む。
建物の中の方が寒いのではないか、とロマは肩をすくめながら階段を下りた。本当は毛布にくるまりながら夢を見ていたい時間ではあるが、尊敬すべき恩師が寒いというので、ここしばらくは朝早く起きて、最近買った新しい暖炉の火をつけて部屋を暖めている。そうしたところで感謝の言葉の一つも出てこないのが、ロマの恩師の凄いところだった。
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