Piece16



 確かに掘り出し物だ、と鎧をまとった男は納得する。侵入者を知った時、真っ先にこれを思いついた自分を褒めてやりたい。魔法のような飛び道具を持たない彼にとって、武器や防具は確かな戦力になる。素人相手ならば尚更だった。
 いっときはその選択を恨みもしたが、どこでどうサイコロの目が出たものか、わかったものではない。目は鎧にとって良い数字をはじき出したようだ。
 あと少し、というところで鎧は足を止める。少年はいまだに動きもせず、鎧を真正面から睨みつけるばかりだった。怖気づいたのか、といくらかがっかりしながらも、その一方でこの馬鹿騒ぎを終わらせることが出来ると安堵しながら、鎧は力強く地面を蹴りだし、その重そうな見た目からは想像も出来ない早さで大太刀を薙ぐ。
 微動だにしなかった少年はそこで初めて動いた。鎧に向かって跳躍して一閃を逃れると、鎧の頭を鷲掴みにし、肩を足蹴にしてそこに立つ。鎧は大太刀で自分の首ごと少年を斬ることも出来ず、得物を離し、少年の足を掴んで振り落とそうとした。だが、強固な力で踏ん張っているらしく、例え片足がずれてももう一方の足は動かず、両足が落ちても手で鎧の頭を抱え込んで決して離れようとはしなかった。
 やがては鎧が望みもしないのに肩車のような体勢となり、今度は少年を壁へ叩きつける。鈍い音が何度も廊下に響き渡った。その度に鎧は息を切らせ、自らも壁にぶつかるために、その反動が大きく内部にまで伝わっていた。鎧の狭い視界からは少年の様子は見えないが、手や足が鎧を掴む力は衰えていない。ただ、壁へぶつかる度に呻き声は聞こえるので、影響はそれなりにはあるはずだった。
 なのに、離れない。
「……くそおおおお!!」
 咆哮を上げ、がむしゃらに壁へ打ち付ける。もはや、鎧は自身の安否など考えてはいなかった。長時間、重い鎧を身にまとい、更に重い大太刀を振り回した結果、彼の身体には相当な負担が蓄積されている。加えて、鎧の中は息苦しく、暑かった。自然と息が回復するのにも時間がかかる。
 少年の体は磁石のようにくっついたままだった。その重みが、手の感触が、足の動きが、鎧にとって目障りで仕方ない。少年の様子は全くわからない。普通なら離れるはずのものが、離れてくれない。なのに、その理由が鎧には全く理解出来ない。
 理解出来ないものは、ただただ、恐ろしい。
 鎧の中という特殊な環境が拍車をかけたことは間違いなかった。視界のための隙間があるとは言え、それは所詮隙間でしかない。完璧な鎧は極度に密閉された閉鎖空間だった。
 鎧の中の男は既に考えをまとめることが出来なくなっていた。自分が何のために鎧を着たのか、どうしてこんなことをしているのか。ただ、一心不乱に壁へと突進し、自身の肩に乗った悪魔を振り下ろしたくて仕方がない──本当にそれだけが、彼の頭の全てを占めていた。
 かつて、彼が蹂躙していった人々が感じたものと同じものを、彼はその何倍もの威力でもって体感していた。

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