Piece15



 ギレイオなら一日でも寝ていることは出来るが、サムナに疲労を取るための睡眠というものは本当の意味では必要ない。剣の手入れとも思ったが、それとて一時間もかからずに終わってしまう。やるべきことを終えた後、残りの時間を宿で過ごすということを「勿体ない」とサムナは思ってしまった。先日、ギレイオが用いた言葉だが、こういう場面で使うものか、としっくりくる。
 ギレイオは頭をかき、サムナの申し出を吟味した後に「いいよ」と承諾した。
「ただし街は絶対に出るな。余計なことにも首を突っ込むな。巻き込まれそうになったら、すぐ逃げろ。何かあったら必ず、俺に言え」
 傍から聞けば子供に言い聞かせるような内容だが、サムナは真面目に頷いてから問うた。
「お前は? 宿にいるのか?」
「暇だから車のメンテでもして、あとは昼寝してる。寝てたら叩き起こしてくれていい」
 じゃ、と言ってギレイオは手を振って宿へと向かった。
 ギレイオがあっさりと承諾してくれたことは予想外だったが、その心境の変化をありがたいとサムナは思うことにした。もっとも、昼寝をする、というあたりはギレイオの本心からの欲求なのかもしれない。ならば、その邪魔をするようなことはしないでおこうというのが長年の経験からの教訓だ。
「……さて」
 サムナは宿を背にし、雑踏の中へと歩き出した。



 思えば、ギレイオと出会ってからこっち、サムナは一人で歩いたことがほとんどない。ギレイオが許さなかったためだが、人間社会において必要とされる会話能力に不安のある相棒を、単独でうろつかせることが出来ないという理由には頷けた。同時に、重討伐指定されていた間は、一人でいようものなら有象無象が賞金目当てに襲ってくる。サムナ自身も、幼いギレイオを一人に出来ないと考えていた。だから、常に一緒だった。
 一緒に歩いている、と思い込んでいただけかもしれないと考えるようになったのは、つい最近である。
 ギレイオがひた隠しにする過去とサムナの過去。どちらもあえて触れようとしなかった物に、図らずして光が当てられることになった時、サムナは当初、少なくとも自分のことに関してのみ、どうでもよかったと言わざるを得ない。
 知ったところで今の自分に出来ることなど限られている。人によって作られたものである以上、創造者への興味がないとは言い難いが、あるとも言えない。作られ、放逐された身であるから尚更だった。
 捨てられたのか、それとも自ら逃げたのか。今はこうして詮索出来るものの、それとて純粋な興味からくるものではない。「お前はそうだった」と聞かされ、では何故と疑問に思ったからでもない。ギレイオがそれについて疑問をもらしたから、思考するきっかけを得ただけに過ぎなかった。それでも、記憶を失う以前の自分がどう考えた後に行動したのか、サムナには一切わからなかった。どうして失っているのかも、サムナには本当にわからない。

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