Piece15



 ラオコガは苦笑いを浮かべた。
「仕方ない。とりあえず皆、あの飛空艇のために生きてるようなもんだから」
 それを黙ってギレイオは見つめ、大きく息を吐いて残りの食事をかっこんだ。
 困難とわかっていてもやらねばならない。その意志を崩すだけの槌を、余所者であるギレイオたちが持ち合わせているはずもなかった。
 微かに照らすだけだった朝日がにわかに鮮やかさを帯び始め、往来が賑やかになってくると、ギレイオは「わかった」と言ってサムナと連れだって席を立った。ラオコガたちがソランの詳細を調べるとなった手前、彼らにはやることがない。どうするのか、と問うたラオコガにギレイオは「ぶらついてる」と答えて店を出ていった。
 小さく息をついてそれを見送ったラオコガの隣に、小柄な給仕が盆を持って立つ。
「……人の勤め先で不穏な話をしないでくれる?」
「やーここぐらいしか落ち着いて話せる場所を知らないもんで」
 アインは険を含んだ目つきでラオコガを見下ろした。
「ならもっと小声で話しなさいよ」
「別に構わないだろう。誰もいないんだし」
 その通り、店にはラオコガと給仕のアイン以外に誰もいない。人通りの多くなったこの時間でも人が入らない。その要因は料理の味にあった。冒険者あがりの店主が店をここに構え、早朝から食事を出してくれる店として開店当初は賑やかさもあったが、繰り返し訪れる客は日ごとに減り、今ではラオコガぐらいしか常連客と呼べる者はいない。油と塩をたっぷり使った料理の味がその理由であり、働いているアインでさえまかないの食事を美味しいと感じたことはなかった。それでも働くのはひとえに、身寄りのないアインを快く受け入れてくれたのが、ここの店主ぐらいしかいなかったからである。
 人柄はいいのだが、肝心な舌が壊滅的に悪い。しかし具合が悪いことにラオコガの舌にはよく合うようなので、味が変わることはないし、更には何も知らずに入ってくる冒険者たちもいるから一応は商売が成り立っていた。
 客席から見える厨房にいる店主に手を振り、ラオコガはアインを見上げる。
「快諾とまではいかないが、承諾してくれた」
「陽動以外の仕事も押し付けていたわよね」
「聞いていたのか」
「小さな店だもの。聞こえるわよ。あまり余所者に仕事を押し付けすぎるのもどうかと思うけど」
「その余所者を引っ張ってきたのはお前だろうが」
「そうだけど」
 アインは盆を胸に抱いた。
「これ以上、規模を大きくして誰かを巻き込んでいくのは嫌なの。何かあった時に収拾がつかなくなるじゃない。ラオコガにカリスマ性があれば話は別なんだけどな」
 ラオコガは苦笑する。
「そいつはご期待に添えそうにないが……でもまあ、もう既に充分規模はでかくなっていると思うけどな」
 言いながら頬杖をついた。アインは表情を硬くする。

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