十周年番外編 Another×Route
「いやーうちの父さんもあの年でいい友達が出来て、嬉しいんだろうなあ」
「んな暢気なこと言ってると、そのうちあのソリがじじいの棺桶になっちまうぞ」
「雪の中なら遺体も腐らないから大丈夫だろう」
「あんたは春までじじいの死体を保管しとくつもりか……」
「それぐらいにならないと葬式も出来やしない。だってこの雪じゃ誰も出れないだろ? さすがに最期ぐらいは賑やかに送ってやりたいじゃないか、息子として」
「息子ならとっとと行ってじじいの首捕まえて来いよ」
「それは無理」
バシムは朗らかな顔つきで言う。
「おれでも手綱握れないから、あの人。要は諦めが肝心なんだよ、ルーユ」
バシムの後ろから、一向に動こうとしないでだらだらと話している二人を眺めていたルーユが「でもね」と心配そうに答える。
「どんな人でもあなたのお父さんで、私のお義父さんでもあるわけでしょ? さすがに諦めるには……元気すぎて……」
「それが父さんの強みだからなー」
というわけで、とバシムはギレイオの肩を叩く。
「まかせた!」
「てめえの父親の管理ぐらい、てめえでやれ!」
にこやかに言われたところで何の励みにもならない。バシムのそれは激励というよりも、丸投げであった。しかし、食客であるギレイオに対抗する手はなく、人質よろしく相方はあのソリの後ろに乗っかっている。どうせ寄越されるのはギレイオだろうと思ってのあの行動なら、老人とは言え悪知恵の回りの早さには舌を巻いた。老人であるからこそ、余分についた知恵の丈にあった悪知恵の働きを見せるのだから、たちが悪い。
ぶつぶつと文句を言いながらもギレイオは防寒着を着こみ、マフラーと帽子で顔をしっかり隠す。ソリは小型のもので、大型のものは今、うつけ二人を乗せて動いている最中であった。手に船の櫂を持ち、それを推進力に使う。ソリの中には投げつける目的の鍋を仕込んでいた。
「投げたら回収してくださいね」
「はいはい」
ルーユ愛用の鍋であり、これがなければ煮炊きに不自由するわけではないにしろ、彼女のご機嫌を損ねるのは必至である。食客にそれは死刑宣告をされるのと同じことだ。
ソリの後方にはいざという時、家に残るバシムらに引っ張ってもらうための綱が繋いであった。結びが固いことを確かめ、ギレイオは雪の海に漕ぎ出した。
雪原と言うが、ソリで躍り出てみれば海と言うに相応しい。おあつらえ向きに手には櫂がある。犬を飼っている家では犬がその代わりになるそうだが、残念なことにバシムは犬が苦手だった。機械を使ったソリは金額が張って買えないため、夏冬と船の櫂が場所を変えて活躍している。
櫂を雪へ差し込むたびにさくさくと軽い音がするが、すぐに雪へと吸い込まれて消えていく。いったん動き出してしまえばソリは早く、ギレイオのとっとと終わらせたいという気持ちのお陰もあって、ソリはあっという間に件の二人に追いついた。
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