Piece14



「マトアスはガイアに近い分、夜間にガイアに戻りそこねた冒険者や隊商なんかが駆け込みで入ってくることがある。いわば避難所みたいな役割があるんだ」
 大体は、とラオコガは中心部を指さした。
「この辺りの宿に泊まる。あんたたちも街に入った時に見ただろう? そのあたりだ」
 二人は頷いて返した。
 しかし、ギレイオの中で、微かな警鐘が鳴り響く。
「だが、隊商やギルドの大所帯となるとここではまかないきれないし、彼らの足になった乗り物も停めて置くことが出来ない。そういう時は、皆ここへ移動してもらうことになっている」
 中心部を外れ、北へ移動した所を指で弾いた。ちょうど、ギレイオらがいる遺構群と中心部を線で結んで、三角形になる位置である。
「元々、大きな剣術学校があった所なんだが、ずいぶん昔に閉鎖した。それ以降、大所帯向けの宿にして使っている。……そこへ今度、隊商が駆け込みで泊まることになる」
 警鐘は本物だった。ラオコガの話に不穏なものを感じ、ギレイオは先回りして問うた。
「駆け込みで来るってのに、知ってるような言い方だな」
「もちろん。彼らの足止めをして帰れなくさせるのは俺たちだからな」
 ギレイオは段々と気持ちが重くなるのを耐えながら、言った。
「その流れからすると、あれか? 隊商を襲って魔晶石を奪うっていうやつか」
「話が早い。そうだ」
「そうだ、じゃねえよ」
 両ひざを両手でがっしり掴み、ギレイオは身を乗り出す。
「隊商なんか襲ってみろ。翌日にはそこら中から賞金稼ぎが湧いて出てくるぞ」
「だろうな。それくらいは俺も知ってる」
 あっさりと頷いたラオコガにギレイオは軽く舌打ちをすると、アインを睨み付けた。
「お前んとこのリーダーは馬鹿なのか」
「機械に関してはそうだけど、最後まで聞きなさいよ」
 あのアインでさえもラオコガの話に食ってかからないところを見ると、これ以上、ギレイオが怒鳴り散らしたところで独り相撲になるのは目に見えていた。出来ることなら厄介事を避けて通りたい身であるのに、とは言えず、話の行方を見守るつもりで乗り出した身を引っ込める。ただし、喉元まで出た言葉は引き返すことが出来ず、ギレイオは不満そうに言った。
「隊商には大体、ギルドや冒険者の護衛がついているのがほとんどだ。中身によっちゃ神殿騎士団まで出しゃばってくる」
 アインに言外に馬鹿にされたラオコガは顔をしかめつつ、それも知っていると言った。
「ガキじゃないんだ。それくらいは知っている」
「頭の沸いた大人ならやりかねない、ってことだよ」
「俺がそう見えると?」
「少なくとも、常識が通じる相手には見えねえな」
「はっきりしてるなあ、お前……」
「危ない橋は渡らない。俺はそれを曲げるつもりはねえぞ」
 ラオコガは小さく息を吐き、諭すように言葉を紡いだ。
「まともな隊商なら、俺たちも相手にはしない。これでも常識はあるからな、自分たちでは歯が立たないことぐらいはわかる」
 多分、と言ってギレイオとサムナの二人を示した。

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