Piece14



 対するラオコガは、生き生きとした表情で語り出す。
「ゴラティアス=アロンといったら、大陸一の機械工で有名だ。彼に扱えない物はないと言われて、繊細な仕事は誰にも真似が出来ない。機械工の誰もが一度は耳にして、憧れる名前だ。でも、実際に彼自身を見たり共に仕事をした人間はごく僅かで、だから、その存在もどこか伝説めいたものだったんだよ」
 サムナは聞きながら、確かに、あのように地下にいては、目に触れる機会もないだろうと思う。蓋を開ければ何ということのない現実がお目見えするわけだが、実際を知らないということはこうなるのか、と妙に感心した。
「それが、彼の下で学んだ人間が今こうして目の前にいるんだぞ。憧れの人の弟子に会えるなんて、奇跡としか言いようがない」
「……奇跡も一回りすりゃ、つまらねえ日常だけどなー……」
 ギレイオとしては、一言二言、釘を刺さずにはおれないといった表情である。もし、ヤンケが同席していたなら、ギレイオよりも激しい剣幕でラオコガの幻想を打ち砕こうとしたことだろう。
 ラオコガが根掘り葉掘り聞こうとするのを見て、ギレイオは手をひらひらとさせて話を遮る。視界の端にとらえたアインの表情が、先刻から秒単位で変化していくのが恐ろしい。
「とりあえず、その話は後にしようぜ。本題を片づけてからでも遅くねえだろ。な」
 実際を知らない人間の幻想を聞かされるのも嫌だったし、その一部は本当でもあるのだから、尚の事、聞いていて気分のいいものではない。腕がいいのはギレイオも認めるとしても、人間的な面では大いに反論したい部分が山ほどある。それを、いちいちあげつらって反論していては、アインの堪忍袋の緒がもたなそうだった。
 ギレイオの申し出に、ラオコガは本来の目的を思い出したようで、苦笑しながら謝る。
「悪い。頼んでおいて、話を放っておくのは駄目だな」
「そうそう」
「似た者どうしじゃない」
 ちくりと針を刺し、アインは男二人の返す言葉が見つからないという顔を何の感慨もなく見返す。
「話を戻すけど、魔晶石でないと駄目なの。魔石なんかお呼びじゃないわ」
「……まーいいけどな。お前らの造るもんだし、俺も一応は忠告したからな。後はお前らの判断に任せるよ」
 これ以上は言っても無駄だと、アインの顔を見れば言葉を飲み込むしかない。どうやら強情な性格以上の理由があるらしいが、それは今のところギレイオには関係がなかった。
 アインはにこりと笑って「ありがとう」と言う。
「で? 欲しいもんはわかった。それをどこから調達すればいいのか目星はあるのか?」
「一応は、ある」
 ラオコガが後ろの机に手を回し、散らばった書類の中から地図を引っ張り出した。
「これはマトアスの地図なんだが」
 使い込まれた地図には建物から遺跡の場所まで、事細かに記してある。遺跡の街ならではの地図だろう。これを片手に観光なり研究なりをしてほしい、というような意図が見え隠れする物だった。

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