Piece14



「おれもお前から飛空艇の知識を聞いたのは初めてだ。よく知っていたな」
「お前が持ってる知識に比べたら天地の差ですよ」
「ああ……まあ、そうだな」
 ひがみ半分で言ったら、あっさりと肯定されて、ギレイオもこれ以上は嫌味が思いつかなかった。そこで棘を引っ込め、最初の問いに答える。
「じじいにしこたま聞かされたし、俺もそれは嫌いじゃなかったからな。あそこにゃそういう本なら、そのへんの図書館にも負けねえくらいはあったし、結構俺も読んでたから、それなりに知識はついてるだろ。でなかったらあの時間が勿体ない」
 勿体ない、で締めるあたり、ギレイオらしい理由である。
 二人の話を聞いていたアインは身を乗り出した。
「あなたたち、誰かの所で勉強したの?」
 サムナに関してはその比ではない。元から持ちうる情報量が違う。だが、それについてわざわざ言うこともない。
「俺ら兄弟弟子だから。ちなみに俺が兄弟子」
 さらりと嘘をついて、その上で自分を立てておくことも忘れない。この要領の良さをサムナは相変わらず凄いと思うのだ。
 相方の軽快な二枚舌に内心で拍手を送りつつ、サムナも頷いておく。
「よければ、どこで学んだのか聞いてもいいか」
 ラオコガが尋ねる。同じ穴のムジナと思えば、自分が持ちえない知識の出処は知っておきたいものだろう。ギレイオにもそれは理解出来たが、ここで大人しくゴルの名前を言ってもいいものかと逡巡していると、その隙にサムナが答えてしまっていた。
「ゴラティアス=アロンという機械工の所だ」
「あ」
「どうした?」
 思わず声をあげて相方を見やるが、サムナは淡々とギレイオを見返して、ギレイオがしまったという顔をしている理由を探ろうとしていた。しかし、サムナに答えがもたらされるよりも早く、驚きを露にした人物がいた。
「……ゴラティアス=アロンって、あの? 本当に?」
 今までにない食いつきでラオコガが身を乗り出す。その目は水を得た魚のようにきらきらとしていた。
 サムナにはその理由がわからず、加えて、ラオコガの隣で呆れたような視線を送るアインの表情にも理解が追いつかない。ギレイオの内心など知る由もなかった。
 言葉を繕って言い逃れするには、サムナはあまりにもはっきりと名前を言ってしまったし、適当に茶を濁すには分が悪い。こと、機械に関してならば、尚更だった。嘘をつきながら関わり続けられるほど器用な人間でないことは、ギレイオ自身が重々承知している。
 一見して悪い人間ではなさそうなので、ギレイオは渋々といった体で頷いた。
「そうだよ」
 ラオコガは感極まったような顔で、目の前に突如として現れた現実を飲み込もうとするかの如く、大きく深呼吸した。
「彼は、本当にいたのか」
「伝説よろしく、本当に雲の上の人間になってくれればどんなに良かったか……」
 ギレイオがぼやいてみせると、向かいに座ったアインが表情そのままの声をあげた。
「……その話、長くなるから後にしてくれる?」
「待ってくれ、こんな機会滅多にない」
「一緒に働いていれば、そのうち時間も空くでしょうが」
「じじいの話なんか聞いたって、これっぽっちもためにならないから安心しろ。鼻ほじりながら話してもお釣りがくるレベルだから」
「それは身近にいすぎるから言えることだ」
「……つまり、どういうことなんだ?」
 各々、自由に発言を繰り出す中、ようやく訪れた隙間のような沈黙を縫って、サムナが疑問の声をあげる。ギレイオは自分から言うのも嫌だという風に手を振って、ラオコガに説明を促した。

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